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第298話
「……とるべき手を間違えたのは子供の罪じゃないか」
淡々と断罪してくる周に、末子は絞り出すように言った。そうしなければ自分が間違っていると認めなければならないが、そんなことはしたくない。だが、そんな末子の矜持など周に知ったことではないし、どうでも良い。
「じゃぁ、その手は幾つあるの? あなたは、手を差し伸べなかったのに」
「それは――ッ」
「知らなかった? うん、そうだ。あなたは雪也の存在をその時知らなかった。あなたが知っている雪也は、薬売りの青年という姿になってから。だからあなたが手を差し伸べられなくても仕方がない。知らないのだから助けられない。そう、あなたにはその逃げ道がある。でも、それでも俺は聞く。その時、もしも雪也の存在を知ってたなら、あなたは助けたの? 助ける手を、差し伸べたの?」
何も持たない、ただ美しいだけで稼ぐどころか金がかかるばかりの、赤の他人を助けるのか? 手を差し伸べ、愛情を注ぐのか?
「私にはお多恵がいる。この貧乏暮らしで、もう一人養うことなんか――」
「そう、あなたには出来ない。助けるどころか、手を差し伸べることもしない」
末子が全てを言う必要などない。わかっていると周は頷いた。子供の姿に似つかわしくない、ひどく冷静で、悟ったかのような――何も期待できないことを知っている諦念の眼差し。
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