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第322話
ゴリッ、ゴリッと薬草を薬研ですり潰しながら穏やかな日常を過ごしていた時、俄かに庵の外が騒がしくなって雪也と周が顔を上げる。するとガタンと大きな音を立てて、いつになく乱雑に由弦が扉をあけた。その肩には力の入っていない腕がダランと垂れ下がっている。
「雪也! なんかよくわかんねぇけど急患ッ!」
おそらくここまで連れて来たのだろう顔見知りの肉屋の主人と二人で、まったく力の入っていない男を支え引きずっている様子に雪也は勢いよく立ち上がる。奥に布団を敷いて、汚れても良いように上から布を被せた。
「ここまでお願いできる? すごく血みどろだけど、何があったの?」
周に水を持ってくるようお願いして、由弦たちに手を貸して男を横たわらせる。ベッタリと肌に張り付いた着物の合わせを寛げれば、雪也の真白い手が真っ赤に染まった。
「俺は親父さんが連れて来たの助けただけだから、よくわかんねぇ。親父さん、この人どうしたの?」
由弦に視線を向けられて、肉屋の主人は渋い顔をしながら首を横に振った。
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