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第330話

「……んっ」  無意識に小さな声が零れ落ちる。その瞬間、耳に聞こえていた楽し気な声が途切れ、誰かが近づく気配がした。 「あぁ、目が覚めましたか?」  優しく穏やかな声の主がのぞき込んでくる。見た目は非常に美しい女人のようだが、声を聞く限り男なのだろう。  ここはどこなのか。お前は誰なのか。敵か、味方か。問い詰めたいことは山ほどあったが、喉は乾いた咳を零すばかりで何一つ意味のある言葉は出てこない。それを自覚してようやく、自分の身体が燃えるように熱いことに気が付いた。どうやら己は今までに経験したことがないほど発熱しているらしい。暑くて、苦しくて、喉が渇いて仕方がない。それに気づいたのか、覗き込んでいた美しい青年がほんの少し頭を起こしてくれ、口元に椀を近づけてゆっくり、ゆっくりと水を飲ませてくれる。おそらくはただの水なのだろうが、これが天上の甘露なのかと思うほどに、ひと口飲んだ瞬間に身体が少し軽くなったような気がした。

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