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第332話

 次に男が目を覚ましたのは昼頃だった。あの熱で朦朧としていた日からどれくらい経っているのだろう、身体は少し熱っぽいがあの日ほどではなく、胸元が僅かにジクリと痛みを訴えているが耐えきれないほどではない。視線を巡らせてみるが人影はなく、シンと静まりかえっている。あの日は燃えるように身体が熱くて身じろぎひとつできなかったが、今ならば動けるような気がして、男は起き上がろうと布団に手をついた。  身体は重怠く、ジクジクと痛みを訴えてくるが、それを無視して上体を起こす。たったそれだけのことに心臓がバクバクと早鐘を打ち、呼吸が荒くなった。無意識に胸元を押さえながらもう一度視線を巡らせる。やはり誰もいないようだ。 (ここはどこだ……)  室内はさほど広くないが、掃除は丁寧にされているのだろう綺麗に整えられている。しかし完璧な綺麗さではなく、人が生活しているのだろうことも随所で見られ、どこにでもあるような――それこそ男が崇高なる志を胸に出てきた懐かしい温かさの感じる室内に警戒するようなものはないと思うが、あちこちに視線を巡らせても己の刀が見当たらず背に嫌な汗がつたい落ちる。

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