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第338話

 淀みなく告げられた、その言葉。怪しいところは何も無かったが、男からすれば情報という情報がほとんど含まれていなかった時点で充分に怪しかった。  確かに治療を施され、手足も拘束されていない。先程少し動いたが、身体が上手く動かないのは熱と刀傷のせいで毒を盛られたからではないと男は経験上理解していた。それを疑うことはしないが、どうにも雪也という男は怪しく、信用できない。  どう考えても厄介ごとを抱えている男を追い出しもせず治療を施し、助けた。それだけならば随分なお人よしという可能性もあるが、彼は男が殺気を見せようと笑みを崩すことは無く、真っ直ぐに男と相対した。今は隠されていたとしても、元々は刀を手に振り回していた者だと雪也は知っているというのに、彼からは僅かの緊張や恐れを感じない。普通の町民で、そのように肝が据わっている者などいるのだろうか? 「なぜ俺を助けた」  利用か、捕縛か。雪也が情報らしい情報を口にしないのは意図的にか、それとも本当に知らないからなのか。

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