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第368話

「上様は、どう?」  囁くような、周囲の耳を警戒して極限まで小さく零されたその言葉に、弥生は無言で首を横に振る。それだけで答えとしては充分だった。 「近臣たちがこちらに来るそうだ。それで事態が好転するとも思えんがな」  華都との会合のため倖玖城に留まっていた茂秋が突然倒れたのは三日前のことだった。それからずっと、胸の痛みと戦いながら床に臥せっている。帝からも医師が派遣され、賢明に茂秋の治療にあたっているが、弥生の頭から最悪の予感が離れることは無い。  随分長くなった倖玖城での滞在で、茂秋の身体は大きく変化していた。華都側と揉めてからしばらくした後に、茂秋は胸の痛みを度々訴えるようになっていた。常より将軍の身体を診ているお抱えの医師は疲れゆえだろうと言ったが、弥生と優はそうではないことを確信していた。

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