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第376話

「弥生……」 「はい」  随分弱くなったが、それでも強く、茂秋は弥生の手を握る。その手に重ねるように、弥生はもう片方の手を乗せた。 「最後の、最後まで、衛府のために、そなたらを、利用しようとする儂を……許せよ」  衛府の為に側に置き、今また、衛府の為に離れろという。そして、いつか衛府の危機が訪れた時には、再び戻れと。  どれほど身勝手で、残酷で、最悪な事を言われているのか弥生はちゃんとわかっている。すべてを理解し、ひとつ頷いて見せた。 「父も私めも、上様の御為とあらば、どんなことでもする覚悟でございます。近臣として城に上がったその時より、心は変わりません」  謝る必要は無い。許しを請う必要もない。春風家は近臣なのだ。すべてを衛府のため、将軍のため、そして国のために捧げるのは定めだろう。  心強い言葉に、しかし弥生という人間を知るからこそ、茂秋は小さく苦笑した。もう、満足に笑うことさえできなくなっている。

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