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第416話
「雪也! 水!」
雪也が常に使用している湯呑を両手で持ちながら、言葉こそ勢い良いものの由弦が慎重にやって来る。渡されたそれには溢れそうなほどなみなみと水が注がれていて、なるほど、これでは慎重にもなると納得する。水を零さぬよう湯呑に顔を近づけてすすれば、何かがへばりつくように乾いていた喉が生き返ったような感覚がした。こころなしか身体も少し軽くなったような気がする。
「んんッ――、ありがとう由弦。周も心配かけてごめんね。それから……」
チラと視線を向けて、雪也は弱弱しげに眉尻をヘニョリと下げた。
「もしかして、女将がここまで運んでくれたのでしょうか? ご迷惑をおかけしてすみません。重かったでしょうに」
赤い顔をして俯く雪也はひどく憐れで、常に堂々としている女将も顔を上げさせようと慌ててその肩に手を伸ばした。
「何言ってんだいッ! そんなこと気にしなくて良いんだよ。雪ちゃんは軽いからね、迷惑でも何でもないさ。それに――」
言葉を途切らせた女将は、キッと鋭い眼差しを庵の外へ向けた。まるで未だそこにいる男達を射殺さんばかりのそれに、雪也はコテンと首を傾げる。
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