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第492話
「でも蒼、あの向こうって確か近臣のお屋敷が建ち並んでる場所じゃなかった?」
そう、湊の言葉通り、蒼の店がある場所から少し離れた先――悲鳴が聞こえた辺りは豪商や近臣の屋敷がズラリと並び、店などは存在しない。当然、春風家の屋敷もあの場所にある。
「弥生さまたちに何の関係もなければ良いけど……」
心なしか歩調を速めながら悲鳴の聞こえた方へ向かえば、ちょうど近臣たちの屋敷が建ち並ぶそこに先が見えないほどの人混みがあった。
「ちょっと、すみません。ごめんなさい」
離れないよう湊と手を繋ぎながら、人の波をぬって進む。そしてポッカリと空いた中央に視線を向けた時、二人はその光景に足をピタリと止めた。
辺りに漂う、むせ返るような錆びた鉄の臭い。赤黒いものがベッタリとついた抜き身の刀があちこちに転がり、その傍には黒い塊が倒れていた。そして――
「蒼……あれは……」
倒れ伏す黒い塊たちの中心に、美しい飾り彫りと金箔が施された見るからに高価な籠が置かれていた。将軍に仕える高位の近臣が移動の際に使うその籠は四方に刀が突き刺さっており、ポツンとそこに置かれている。当然ながら中には人がいるであろうに、ただ静かにそこにあった。
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