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第534話

「そう、だな……。そなたの言う通りだ。とはいえ、私ひとりでどうこうできる時点はとうに過ぎた。先の茂秋公の御代よりそのようなものではあったが、近臣たちは〝上様〟と呼び敬いつつも私の言葉に忠実であろうとすることは無い。してはならないと命じたところで彼らは自らがすべきだと思えば、その是非に関わらず行動し、せよと命じたところで自らに利益がなければ何かと理由をつけて動こうとはせぬ。そして私は近臣の力が無ければ軍ひとつ動かせぬ小物よ」  確かに、今の衛府は一枚岩ではない。長きにわたる治世で権力に胡坐をかき、自らの欲を優先させる近臣が増えた。今の近臣に〝上様の御為に命を差し出せるか〟と問いかければ、おそらくは全員が是と答えるだろうが、それがまったき本心である者は片手で数えられるほどだろう。芳次の言葉は自嘲でも卑下でもなく、事実だ。 「近臣が当てにならぬことは理解しました。上様のお言葉を否定する何をも私は持ちません。ですが、力を持つのは何も近臣だけではございますまい」  弥生の脳裏に一人の影がよぎる。芳次の味方になってくれるかどうかは知らないが、少なくとも衛府の為になら幾らでも動いてくれるだろう。しかし芳次は誰の事を指しているのかわからないのだろう、眉間にクッキリと皺を刻んだ。

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