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第539話

 例え若者たちが決起しようと、彼らだけならば城を突破するのは至難の業。楽観視は決してしないが、それでも凄惨な現場を見るかぎり彼らは刀にさほど慣れていないようだった。そのやり口、現場に残ったものを考えるに、おそらく訓練を受けた武人ではない者が大半だろう。銃や大砲が使えなければ、城を落とすのは難しい。だが、そんな彼らに領主がつけば話は別だ。領主の私兵たちは当然ながら訓練を受けた武人で、武器の扱いにも、戦い方にも長けている。彼らが牙を向けてきたら、この城さえも安全だとは言えない。最大の懸念であった織戸築と峰藤を抑え、衛府のことを考えてくれる杜環はもう、防波堤になるだけの力は残っていないだろう。  弥生は近臣だ。傍には頭の切れる優も、一騎当千の紫呉もいる。だがそれでも、時代の前には無力だ。できることなどたかが知れている。 「……近頃、とみに思うのです。上さんが願う国とはどんなものであったのか、もっとお話をすればよかった、と。きっと上さんは、私が聞けばいくらでも教えてくれはったでしょうに」  愛しさの滲む声音で紡がれる〝上さん〟は、当然ながら現将軍である芳次ではない。あの、静姫宮に優しく誠実であった茂秋ならば、つまらないのではと気を遣って話さなかった国の展望もきっと話してくれただろう。それを知ることができぬまま別離を迎えたのが、静姫宮には寂しくてならない。

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