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第563話 ※
「食べたようですね。その魚は、普通の白身魚とは異なる、透明感のない白身の、脂がのっている美味な魚ですか?」
雪也の言葉にコクコクと頷いた大男は、助けを求めるように顔を上げた。
「知り、合いがッ、美味い魚だ、とッ……、くぅッ……、夜中、酒のつま、みに――ッ」
「どれだけ食べたんです?」
思い出すように大男は視線を彷徨わせる。昨日は、酒も飲んでいたから……。
「たぶ、ん……、十五切れいじょッッ」
十五切れ以上。その応えに雪也は思わず額を押さえて天井を仰いだ。
「あの魚を十五切れ以上食べたとなれば、こうなりますね……」
何が起こったのかわかったのか!? とその場にいた全員が勢いよく雪也を見る。その視線を受け止めながら、雪也は申し訳なさそうに眉尻を下げて小さく息をついた。
「これはおそらく、この方が夜中に食べた魚が原因です。なので、毒物が混入されていたとか、こちらの膳に問題があったとかではありません」
雪也の断言に店主はホッと息をついて、可哀想なほどに脱力した。腰が抜けたのでは? と思える店主に視線を向けていた老主は、雪也に向き直ると眉間に皺を寄せる。
「よくわからんが、これはどうにかできるものなのか? 腹痛に効く薬は――」
「この状況で申し上げるのは心苦しいのですが、私には打つ手がありません。水は飲んでいただきたいのですが、それ以上はどうしようもなくて」
雪也はただの薬売りだ。医者ならば打つ手はあるのかもしれないが、雪也にはどうしようもない。
申し訳ない、と眉を下げる雪也に大男は目を見開いて震え、兵衛は相変わらず無表情で大男を見つめた。
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