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第579話
「紫呉、お前はどうする?」
弥生は動くことなどできないが、紫呉は護衛。紫呉と由弦の関係を知る弥生は月路と行っても構わないと視線を向けるが、紫呉は小さく苦笑して首を横に振った。
「俺はお前の護衛だ。この状況でお前の側を離れるわけにはいかねぇよ。それに、あいつもそれは望まねぇだろう」
由弦は紫呉と共にいることを喜び、望んでくれる。また武衛を離れるのかと恨みがましく言って、拗ねた様子さえも見せるが、同時に紫呉が弥生の護衛であるということもちゃんと理解しているのだ。生まれながらに与えられた使命を、紫呉に放りだせと言うことは無い。
「お前も心配なんだろ? だったら、さっさと用事を済ませて帰ろうぜ。あいつらも、それを待ってるだろうさ」
そしてまた、笑顔溢れる温かなあの場所で、一緒に食事をしよう。蒼と一緒に野菜を選んで、周と一緒に食事を作って、湊に槍を教えて、由弦と一緒にサクラを構い倒して、雪也の頭を撫でたい。そして、恋人とほんの少し、甘い時間を過ごして……。
「そうだな……」
庵に戻ればあるその光景を夢見て、弥生は瞼を閉じる。
「明日が謁見だ。これですべてを終わらせよう」
あの陽だまりを、永遠にするために。
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