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第581話

「お前こそいい加減に理解しろ! 今がどんな世の中なのかわかんねぇのかッ。衛府の力が弱まってる以上、あの金髪の子や由弦のつれてるサクラを見咎められたらどうなると思ってる! 近臣すら暗殺されてんだぞ! この店なんかすぐに潰されちまうッ」  この国にサクラのような犬を見かけたことはないが、湊のような金の髪に緑の瞳を持つ者は幾度か見かけたことがある。珍しくはあるが、特別なことではない。だが近頃の近臣暗殺が人々の恐怖心を大きくしているのだろう。ほんの僅かでも過激派に目を付けられるような要素があれば、いっそ潔癖なほどに排除しようとする。何も蒼の父が特別なわけではない。  彼らは怖いのだ。自らの明日が壊されてしまうのが。  蒼の言葉は嬉しい。庇ってくれるその言葉に甘えたくなる。だが、蒼の父を責めることは、湊にはできなかった。  だって、わかってしまうのだ。大切なもののためなら、その他のすべてを切り捨てても構わないというその気持ちが。 「湊も由弦もサクラも、何も悪いことはしてないでしょ。今まで何もなかったし、この町の皆にも受け入れられてるのに、今更そんなこと言ったら余計に傷つけるだけだ。今まで充分に傷ついてきたのに、更に傷つけられなきゃならないっていうの?」  そんなことは許さない。きっと蒼は今、目を吊り上げて怒りを露わにしているのだろう。けれどそんな息子の様子など慣れているといわんばかりに、彼の父は湊の耳にも聞こえるほど深々とため息をついた。

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