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第583話

 湊にとって、雪也たちのいる庵もまた居場所のひとつだ。蒼の側にいなければどこにも行けないわけではない。しかし、庵はその場所ゆえにどうしても人通りの多い道を通らなければ行くことができない。そして湊はその道を独りで歩くだけの勇気がなかった。  蒼や雪也たちを守るためならばと一度は一人で動くことを決意した湊であるが、自分一人だけのことになると足が震えて動くことができない。  人々の視線が、声が、湊をこれ以上ないほど臆病にさせる。  けれど、聞いてしまった以上、今までのように蒼に甘えることはできない。蒼の幸せを、世界を、湊のために壊すわけにはいかないのだ。 (あの父親は、蒼のことを愛しているから……)  だから口うるさく言うし、湊を遠ざけようとする。すべては我が子を愛するがゆえに。 〝輝く太陽に、命の緑は平和の象徴。それを持つ湊は、もっと誇ったら良いのに。少なくとも僕は、湊の髪と瞳はとても綺麗だと思う〟  そう言ってくれた蒼こそが太陽だから、陰りなんて与えたくない。

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