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第622話 ※

「ゲホッ、ゴホッ、お、やじッ、親父ッ、しっかりッ」  ゲホゲホと咳き込み、えずきながら蒼はピクリとも動かない父親の肩を揺する。炎に囲まれていた時には必死になるあまり流れることのなかった涙がボタボタと父親の頬に落ちた。 「親父ッ、親父ッ」  起きて、目を覚ましてと叫ぶ。意地の張り合いをして、ろくに話もしなかったあの瞬間が最期だなんてあんまりだ。意見のぶつかり合いも、意地の張り合いも、仲直りも、眠ったままでは何もできない。だからどうか起きてほしい。  父の口元に手を近づければ、微か、ほんの微かに息がかかった。  まだ生きている。だが、いつ途絶えてもおかしくない。 「由、弦……ッ、雪ちゃん……、ゲホッ、雪ちゃんを……ッ」  落ち込んでいても何も進まない。父を助けられるわけでもない。揺すっても揺すっても目を開いてくれない父に蒼はグッと袖で乱雑に目元を拭い、顔を上げて由弦に助けを求めた。  まだ息はある。後悔するのは今じゃない。今、蒼が止まっては駄目だ。蒼が止まっては、父は本当にいなくなってしまう。その前に最善を尽くそう。 「わかッ、たッ」  蒼が何を考えているのかすぐに理解した由弦は、咳き込みそうになるのを堪えながら頷き、立ち上がった。

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