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第627話 ※

 雪也は運び込まれた者達が、必ずしも衛府の者ではないと、むしろ敵対する者だとわかっていた。刀を持って戦う者だとも理解していた。それでも人の命に差は無いのだと、救える命ならば救うべきだと、身分や生まれなど何のかかわりも無い無償の愛情を弥生達に与えられた雪也は、限りある生活の中で出来うる限りを尽くした。おそらくは、雪也に何も言わず手助けをしてくれていた周たちもまた、同じ気持ちだっただろう。  諍いは何も生まないが、差し出した手は何かを生み出す。そう信じていたかったのかもしれない。だが、それもここまでだ。  紫呉からは、護るための力を教わった。ならば、それを使うのは今この時だろう。覚悟して、それでも雪也の胸の内に言いようのない靄が蠢く。 (救った命を、この手にかける覚悟――)  そんなもの、したくはなかった。 「心を貫きたいのは我々も同じこと。だが、我々とそなたの心には、大きな違いがある。それを理解してくれ」  その〝大きな違い〟とやらが何を示すのか、残酷にも雪也はわかってしまった。理解したくもないそれはなんと傲慢で、自己に満ちているのか。 「私が理解する必要があるでしょうか。……できることならば、この刀を振るいたくはありません。血肉を切る覚悟など、本来ならば必要のないものですから」  相容れない考えだ。相容れないが、だからといって相手を消す必要はない。雪也は刀を構え、真っ直ぐに彼らを見つめた。

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