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第657話
「……私が武衛にたどり着いたちょうどその時に、呉服問屋の兵衛殿が湊と共に当主を訪ねてこられました。異変を感じ燃え盛る屋敷に赴いたところ、屋敷から少し離れた森に由弦と火野 蒼、そして蒼の父親が倒れていたようです。おそらく、納品の手伝いをしていた蒼の父が火事に巻き込まれ、それを蒼と由弦は助けようとしたのだろう、と。ですが蒼の父は火傷以外の外傷が見られないというのに、蒼と由弦には明らかに刃で切られていたと。すぐに兵衛殿は庵に向かいましたが、そこには地面が見えないほど血に濡れ、数えきれないほどの男達が倒れ、刀が転がっていたそうです。その時点で周は既に息絶えていましたが、雪也は瀕死の状態ではあるものの生きていたようです。ですが、周も由弦も蒼も殺されたと知り、兵衛殿にサクラを託して服毒し、すぐに息絶えたと。蒼は火野の家に、雪也と周、由弦は当主が春風の屋敷に連れ帰りました。後日、弔うと。サクラも当主が引き取り、今は屋敷におります」
話すにつれ、月路の声が微かに震える。同じように、紫呉の拳もまた震えた。
「……そうか」
守ろうとしたのか。あの子達は、最後まで必死に。なのに、与えられるものはこんなにも無残なものでしかないのか。
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