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第707話

「――ッッ」  ギリギリと音を立てて弓が引き絞られる。優が目を細めた時、先頭を駆けていた男が声を張り上げた。 「そこにおわすは春風 弥生殿とお見受け申す! 我らは箕伏の者。領主・斎条の命により、衛府まで護衛申し上げるッ!」  斎条。その名に弥生は目を見開き、優はピクリと瞼を震わせた。ゆっくりと弓矢が下ろされる。斎条が抱える私兵たちは統率の取れた動きで弥生の馬を囲み、外からその姿を隠す。 「このままお進みくださいッ。領主は既に春風当主の呼びかけに応じて衛府におりますッ。過激派もそれを狙って秘密裏に動いているとの情報がッ。お急ぎくださいッ!」  先程声を張り上げた男が隣に来て、僅かも速度を落とすことなく駆けながら告げる。  増援に駆け付けてくれたことを喜べば良いのか、もう僅かも猶予が無いことに嘆けばいいのか。  だが裏を返せば、まだ間に合う。 「感謝を」

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