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二十日『四川料理の日』

 信周は晴日を凝視していた。  晴日は真っ赤になって顔を歪ませている。悩ましく眉を寄せ、舌を出し、苦し気にはあはあと喘ぐ。その目はうっすらと潤んでいて、汗で張り付いた前髪をそっと払う指は少し震えていた。 「あのさあ……」  信周は堪らず頭を掻いた。 「何でそんなエロい食い方してんの?」 「え……だって、辛くってぇ」  ここは通いなれた中華料理店だ。晴日の前には食べかけの、いかにも辛そうな坦々麺。信周は妙に色っぽい晴日から目を逸らすと、回鍋肉と一緒に勢いよくご飯をかき込んだ。

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