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第42話 人は見かけに寄らぬもの
「ふふ、そんなに焦らなくてもいいのに…。」
僕がそう言いながら、相手の首からネクタイを解くと喉仏がゴクリと動いた。相手のフェロモンは、まぁ及第点と言った所かもしれない。僕はベーターの割に体質も能力もアルファに近くて、αのフェロモンの違いもかなり分かる。
αにとってはβは遊び相手で本気の相手ではないだろうけど、それはこっちも同じだ。せいぜい僕が成り上がるために利用してやるだけだ。僕は目の前の、自分が優位だと思い込んでいるおめでたい若い男の指をいやらしく咥えた。
「Qは、やっぱり下の名前だけでも教えてくれないのか?」
興奮を隠せない男は、僕がネクタイを使って自分の手首がベッドに縛られるのをじっとりと眺めながら言った。
「秘密がある方が興奮するでしょう?それとも、僕にもう会いたくないって事なのかな?」
そう言って下半身を露出させた男の、猛り切ったソレに息を吹きかけた。
「うっ!いや、そうじゃなくて…。君は随分若く感じるから。」
男の眼差しが跨った僕の身体をうっとりと見つめるのを見てゾクゾク感じながら、眉をひそめた。
「…これ以上余計なことばかり言うなら、もう可愛がるのはやめようか?」
男は慌てて僕に謝って、続きをせがんだ。僕は焦らす様に男に口付けると、男に見せつける様に自分のあそこを解してゆっくりと男の剛直を飲み込んだ。
今日のαは悪く無かった。僕が相手をするのはSNSのチャットグループで知り合ったαの大学生だけだけど、それは趣味と実益を兼ねてるんだ。お互いに楽しめるなら悪くない取引だ。
駅に向かいながら、今月は生徒会の仕事が忙しくてスマホを震わすメンバーをさばけてないなとため息をついた。ふと目の前の改札に人目を引くカップルが居るのが目に入った。
あのカップルは学校にいても、外でも目立つのかと苦々しい気持ちを感じた。さっきまで胸を占めていた満足感は、あっという間に霧散してしまった。
微笑み会う二人は、誰もが認める上位αである東篤哉。東グループの御曹司。そして、その東が溺愛するΩの三好理玖。中学部に入学して初めて会った男のΩ。
僕は生きづらいΩなんてごめんだとどこかで馬鹿にして生きてきたのに、三好はΩに支配されていなかった。それがバース性にこだわっている僕にどんな衝撃を与えたか。
生徒会で関わる様になると、三好は僕を切り刻むんだ。自分の足掻きと矮小さを思い知らされて…。
僕は歩く方向を変えて改札から遠ざかった。
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