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第93話 涼介side執刀医の説明

 目の前に入室して来たドクターは少し疲れた様子だったが、私たちを見回すと落ち着いた声で話し出した。 「…皆さんお揃いですか。私が理玖君の執刀を担当しました外科の笠山です。先ず、理玖君は大腿部の大怪我で、動脈血管損傷出血が有りました。急激に失血したため出血性ショックが生じてましたが、事故現場からこの病院が近かったのが幸いしました。  ご存知の通り、到着時無呼吸でしたが直ぐに蘇生する事が出来ました。今考えると、現場と病院との距離が救命の紙一重だった様に思われます。  大腿部の怪我は損傷が酷く、バイタルを安定させながらの難しい手術になりましたが、理玖君は随分頑張りました。大腿部以外の怪我は大きいものはありませんでした。  上半身がほとんど無傷なのは、救急隊員の話によれば同乗していた方が庇ったおかげの様です。」  俺たちは顔を見合わせて、ただ理玖の命が繋ぎ止められた事に感謝するばかりだった。しかし目の前のドクターは顔を曇らせて言った。 「…今の時点で命が助かったのは確かなんですが、理玖君は失血でしばらく体内血流が悪い状態が有りました。そのせいで、脳内にダメージがあるかも知れないんです。  原因はハッキリしないのですが、今は自発呼吸に置き換えると血圧が下がってしまうので、人工呼吸管理をしています。一時的な事だとは思いますが、大事をとってしばらくは呼吸を含めた全身管理をする予定です。  もし急変する様な事があれば、ここ数日が山場になるでしょう。何かご質問はありますか。急にこんな状況になって分からない事ばかりでしょうから、もし何かお聞きになりたい事があれば、またいつでもご説明します。」  俺たちは言葉もなく、カンファレンスルームを出た。父さんが俺たちの顔を見回して言った。 「とりあえず、今現在、理玖の命は繋ぎ止められている。これ以上望む事は何もない。ドクターも仰ってただろう。理玖は運が良かったと。大丈夫だ。理玖は絶対私たちの元に戻ってくる。  …私は東さんと話をして来よう。彗、母さんを頼む。」  手術室付の看護師が、しばらく理玖はICUに入るので面会は今から30分後に5分間だけとの事だった。俺は彗に頼まれて父親にその旨を送った。  スマホを打つ指が震えて、中々打ち込めなかった。自分が思いの外動揺している事を突きつけられた気がした。蓮にも簡単に状況を送ると、壱太と二人には帰ってもらう様に頼んで、俺たちは理玖の待つICUへと急いだ。

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