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第101話 篤哉sideあの瞳

 俺は涼介に理玖くんと二人だけにしてもらった。俺の身体の事もあって、いつも誰かしらが側にいて理玖の近くに寄れなかった。でも俺はリハビリを頑張った。  それこそ、理学療法士が止めるほどやった。お陰で俺はついに松葉杖か、支えがあれば立ち上がることが出来るようになったし、少しなら移動出来るようになったんだ。  俺はベッドの隣の椅子から立ち上がって、理玖のベッドへ寄り掛かると顔を覗き込んだ。長いまつ毛が頬に影を作って、俺はそっと頬に指先で触れた。  その頬の柔らかさは俺の記憶を揺さぶった。俺はこれをよく知ってる。ああ、やっぱり理玖くんは俺の番だ。  初めてベッドに横たわる理玖くんを見た時から、この胸を掻き回す哀しみと喜びが何処からやってくるのか分かった気がした。  俺は理玖くんの名前を呼んだ。どうしても目を開けて俺を見つめて欲しかった。あの海辺の夢の中の理玖くんの様に、甘やかに俺を見つめて欲しかった。  俺は理玖くんとの記憶を、今はほんの僅かしか取り戻せてないけれど、今こうして新しく理玖くんへの溢れる気持ちを感じている。説明は出来ないけど、苦しいこの胸の痛みがそれを教えてくれるんだ。  理玖くんと呼びかける自分の声が震えているせいで、俺は自分が泣いていることに気づいた。ああ、理玖くんのことを忘れてしまった俺を許してくれるだろうか。  理玖くんが目覚めない哀しみと、理玖くんとの過去を思い出せない自分への怒りと悲しみ、そして目の前の柔らかな頬に触れたことから感じる愛おしさで、俺は感情が爆発してしまった。  流れる涙を拭うこともせず、只々理玖くんの名前を呼ぶことしか出来なかった。その時、バイタル管理モニターの電子音が変化して、理玖くんの瞼がピクピクと動いた。  同時に理玖くんの甘い匂いが強くなった。俺はハッとして、じっと理玖くんの顔を見つめた。見ていれば目を開けるのではないかと馬鹿みたいに信じたくて。  ふとまつ毛が動いて、瞼が開いた。俺は驚きと喜びと恐怖で混乱してしまって言葉もなかった。開いた瞼は直ぐに閉じられてしまって、焦った俺は更に近づいて、何も見逃さないつもりで理玖くんに必死で呼びかけ続けた。  俺の願いはそれから直ぐに叶えられた。もう一度開けられた瞼の奥から覗くその瞳は、確かに夢の中のあの少年の眼差しだった。俺はその時、理玖くんに完全に囚われたんだ。  覚えてる、覚えていないとかどうでも良かった。目の前の理玖くんの眼差しが全てだった。理玖くんは俺のものだ。

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