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「ねぇ、礼央……」 「なぁに?イリヤ」 「アンタ、女の子のすっぴんとか見ても平気なタイプ?」 「え?俺あんまり顔見てないから気にしたことなかった」 「そう……」 「あ、イリヤ化粧落とすの?俺、結構気になるなぁ……イリヤのすっぴん」 「そんないいものじゃないわよ」  彼は洗面台の前に立ち、目の前に立てられたどこのブランドかも分からないような化粧落としに手を伸ばす。全裸のまま、ボトルを確認しつつ僕に向かって声を掛けた。 「あ、礼央……そこのクリップ取って」 「これ?」 「ん、ありがと……」 簡素なアメニティの袋の封を切り、中に入っていたヘアクリップを彼に渡した。  僕は浴室に足を踏み入れ、ギリギリ大人の男性が2人入れるかどうか程のサイズの浴槽に湯を張る。 しかし何故、彼は突然シャワーを浴びたいなどと言い出したのだろうか。先程まで着の身着のままで事に及んでいたというのに。  不思議だなと思いつつ、浴室から出て彼の姿を見に行くと、いつも左側を隠していた長い前髪を上げ、化粧を落としたばかりの彼がヘアクリップを取ろうとしていたのだった。 化粧を落とした彼の少し切れ長な目も、変わらず綺麗に通った鼻筋も、少し色の薄い唇も、先程とは違う魅力があって綺麗だと思ったが、それよりも一際目に付いたものがあった。 「……顔、どうしたの?その痣?傷……?」 「あー……、……何でアンタすぐ出てくんのよ」 「えっ!?折角だからお湯張ってるよって言おうと思ったんだけど」 「そう……ごめんなさい、見たくないもの見せちゃったわね」 彼は苦笑してヘアクリップから手を離す。左目の瞳から外側にかけて、頬辺りまで赤く爛れたような痣が彼の顔にはあったのだ。 少し驚いた反応を見せてしまったことに対して、彼は僕から目を逸らして小さく溜息を吐いた。 「……、酷いでしょ、この痣……ずっと消えないの」 「何で……怪我とかしたの?」 「いいえ……、事故みたいなものよ」 「……、そっか」 彼はヘアクリップを取り、前髪を顔に下ろす。髪は先程の痣を全て覆い、ほぼ見えなくなる。ばつが悪そうに指先に視線を移した彼を、思わず抱き締めていた。 「ッ急に何」 「イリヤ……俺、イリヤのこと一生掛けて幸せにするから」 「はぁ!?なに!?意味わかんないわよ……!」 「絶対に離さないから……」 「いや……ほんと何?離して、礼央……苦し……っ、」  彼の背中に腕を回し、力一杯に抱き締めると、彼は背中や腰を平手で叩いてくる。べちべちと情けない音を暫く立てていたが、急に大人しくなり力なく腕を下ろした。 「……、はぁ……礼央ってば変な男ね」 「俺、そんなに変かな……?」 「目が好きな事除いても変な男よ……」 「んー、結構言われるけど……やっぱり変かなぁ」 「あら、変って言われるの地雷?」 「イリヤにだったら何言われてもいーよ?」 「なぁにそれ……」 2人で顔を見合わせて、ふふと小さく笑う。化粧をせずとも、長い睫毛と綺麗な蒼眼は変わらず美しかった。少しばかり乾燥した彼の唇に自分の唇を合わせようとした瞬間、遠くでザバザバと水が流れる音がした。 「……、お湯張ってたの忘れてた」 慌てて彼の側から離れ、浴室に入り風呂場の蛇口を捻る。 足を濡らしながら彼の元に戻ると、彼は腹を抱えて笑っていた。 「……フフ、あっははは!あー、もうアンタ面白い……」 「俺は面白くないよ……」 「ほんと?礼央のそういう所、結構好きよ?」 「そう?俺のこと好き?」 「ん、ちょっと好きになったかもね」  彼は依然、笑いが止まらないようで口許を緩ませながら僕の腕に腕を絡ませた。彼に引っ張られながら浴室まで行き、僕は浴槽に溜まった湯を気にせず足を踏み入れた。 「うわ、せっま!」 「アンタでかいからめちゃくちゃお湯流れてんじゃないの、もったいない」 「イリヤが入っても一緒だよ」 「何よ、アンタより体積小さいわよ」 「そんなに変わらないじゃん」 「うるさい」 「じゃあ入る?」 「入りたいけど邪魔よアンタ」 「えぇ……そんなぁ、俺の上に乗る?」 「乗るって何よ、言い方」 浴室の床に溜まる湯がなかなか引かず、仕方ないと言わんばかりに彼は僕が浸かる湯船に足を踏み入れた。 向かい合うような体勢で浸かる彼は、僕の上に跨るように乗り上げた。肩に腕を回して抱き着く彼は、ほんのり頬を赤く染めて此方を見つめている。 「上に乗ってあげたわよ、有難く思いなさい」 「何か女王様みたいだねイリヤ」 「何よ、悪い?」 「ん、かわいーよ」 「な、何、可愛いって……」 「可愛いよ、イリヤ」 「……、よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるわね」 「だって可愛いから」 「……あんまり、言わないで……アタシが恥ずかしい……」 「そういう反応するからいっぱい言いたくなるんだよ、ほんと可愛い」 彼の頬に両手を当て、顔を隠す前髪を優しく退かす。髪に指を絡め、頭を此方に引き寄せ、右の頬に口付けした。 「ッ、……」 「イリヤ、可愛いよ……すっごく、可愛い」 「……、言い過ぎ、うるさい……」 「そういう所も可愛い、好き……」 彼は耳まで真っ赤に染めて湯に顔を沈めてしまった。ぶくぶくと音を立て、暫く水面から出てこない。いちいちこういった可愛い反応をするから虐めたくなるのに、これらの行動は自覚あってのものなのか。  突然、ざばっと音を立て、顔を上げた彼の髪の滴が此方に降りかかる。 冷たい飛沫を少しだけ被り、ふと彼に目線を遣ると、目を細めて口角を吊り上げこう言ったのだった。 「アンタ、すっごいギンギンじゃない」 「え?」 「こんのド変態」 「変態じゃないよ、イリヤが可愛いからだよ」 「うるさいわねもうその言葉には騙されないわよ」 「騙してるわけじゃないよ」 彼の濡れた髪に指を通して首を此方に向ける。今度こそ、と言わんばかりに顔を引き寄せて唇を重ね合わせた。 腰に腕を回し、彼の身体も抱き寄せ、咥内に舌を滑り込ませる。ちゅ、くちゅ、と煩わしい水音が浴室内に響き渡る。彼は目を閉じ、僕の首に腕を回した。 「ん、ッ……は、ぁ……れお……ッ、」 「……、ん、ッ、イリヤ……、はぁ……可愛い……かわいい……ッ、可愛い……」 何度も口付けを交わし、彼の瞳がとろんと潤み此方を見つめる頃、やっと唇を離す。荒い呼吸を繰り返して弱々しく僕の胸に手を当てている。唇から溢れる唾液が顎を伝い、糸を引いて湯に落ちる様子を僕はただ眺めていた。 「……、れお……あっつ……い……」 「お湯?」 「ちが……、からだ……あつい……」 潤む2つの蒼眼と唾液で怪しく艶めく唇、ほんのり上気した頬や身体を見ていると発情しているみたいで、此方も思わず顔が熱くなるのを感じた。  このどうしようもないくらいに可愛い恋人を抱きたい、めちゃくちゃにしたい、そういった欲望がそろそろ抑えきれず、彼の背後に腕を回し、腰を撫でつつ柔らかな双丘に指を埋めた。 「ッどこ触って」 「なぁに今更……そんなこと言って」 「急に触られたら吃驚するじゃない」 「いいじゃん、駄目?」 「触るのは別にいいわよ……、でも、ここじゃ」 「んー、触るのはいいんでしょ?ここじゃ、何?」 「ッ……!」 「なぁに?」 「うるさい!」 「自分で言ったんじゃん……」 「うるさい!!」 彼は僕に対して狭い浴槽の中で手を動かし、湯を顔に掛けてくる。髪の毛も顔もびしょ濡れになった辺りで彼の腰を持ってゆっくり浮かせ、空いた隙間から腰を上げた。  髪と顔が濡れてしまい少しばかり不快感を覚えたため、びしょ濡れになった前髪を後ろに掻き上げる。そのままタオルを取ろうと浴室から出ようとした際、彼がぼそりと呟いた。 「ねぇ……礼央、」 「何?イリヤ」 「アンタって……やっぱり、顔綺麗よね」 「えぇ?急にどうしたの」 「……何でもない」 突然不思議なことを言うものだと思い、浴室を出てすぐの右手にある棚に入ったタオルを取る。きちんとたたまれた2枚のフェイスタオルのうち1枚で髪と顔を拭き、もう1枚を彼に手渡す。 「はい、イリヤ」 「……ありがと、」 「…………?」 「……アタシの化粧してない顔、見ても引いてない?」 「えっ……?」 「いや、あの……アタシ、顔がキツいし……痣あるし……、身体も大きいから……怖がられること多いし……」 フェイスタオルで長い髪の水分を取りながらぽつりぽつりと呟く彼の様子を見ていると、さっきの自信満々な彼からは想像もつかないような姿で、思わず身体を拭く手を止めてしまう。 「えっ?身体なら俺の方が大きいじゃん、それにイリヤの今の顔、俺は好きだよ……すっごく美人」 「……、」 「というか、さっきまであんなに強気だったのに突然どうしたの?そういうイリヤも可愛いからいいけど」 「……お風呂入りたいって言ったの、顔とか見られて引かれるなら早い方がいいって思ったから」 「イリヤのどこに引くところがあるの?」 浴槽から脚を抜き、タオルを肩に掛けてこちらに向かってくる彼をただぼんやりと眺めていると、僕が頭に乗せていたタオルを急に鷲掴みにしてぐしゃぐしゃと撫ぜてきた。 突然の事に驚いていると、彼が此方を見つめてこう言ったのだった。 「アンタってほんとアタシのこと好きなのね」 「好きだよ、さっきからずっと言ってるじゃん」 「変なの……つい数時間前まで知らないもの同士だったじゃない」 「仕方ないじゃん、俺ほんとに惚れちゃったから」 「あはっ、騙されても知らないわよ?」 「俺の事騙してるの?……イリヤになら騙されてもいいよ、それだけの価値はあるかなぁ」 「今はそんな気ないわよ?」  意地悪く微笑む彼の身体を伝う滴を、棚の中にあるバスタオルで優しく拭く。白く、滑らかで骨張った彼の身体の水分を拭き取ってると、少し擽ったいようで時折びくりと身体を跳ねさせていた。 「ふふ、かわいい」 「……、アンタ……触り方がいやらしいのよ」 「何で俺のせいなの」 「アンタが触ってるからでしょ」 「そんなぁ、身体拭いてあげてんだよ……俺優しーじゃん、むしろ感謝されてもいいんじゃない?」 「じゃあアタシも拭いてあげるわよ」 「ほんと?ありがと♡」 先程まで使っていたタオルを彼に手渡すと、そのまま僕の身体に彼はそれを滑らせた。 首筋や胸、背中をタオル越しに彼の手が触っている。何か、少しいけないことをさせてるような気分になっている所に、更に彼は追い打ちをかけてきた。 「ねーぇ、礼央……」 「……何、イリヤ」 「アンタ、こんな所ずっと勃たせて……すっごい……」 「ッ……待って、」 「はぁ……ド変態ね、ほんと……」 彼は真正面から身体を密着させ、僕の耳許で囁きながら下腹部をゆるゆると触り始めた。細長い指に、下腹部のそれを優しく上下に扱かれる。せり上がる快楽と動揺が同時に襲ってきて思考が追い付かない。 彼を何とか制止しようとするが、全く手を休めることはなく、ゆるゆるとそれを扱かれ続けていた。 「、ん、っ、まって、イリヤ……」 「なぁに?さっきまで散々アタシのこと虐めてくれてたじゃないの、ちょっとくらいいーでしょ?」 「よくな、い……っ、ん……ッ、」 「何で?舐めてほしーんでしょ?後でいっぱい舐めてあげるから、ちょっとだけ遊ばせなさいよ……ね、礼央♡」 彼は先程、散々胸を弄られたことを根に持っているらしく、僕の反応を見てニヤついてる。口角を吊り上げ、上機嫌な彼をひとまずベッドに行くよう促す。  はぁ、と一つ溜息を吐き、仕方なくベッドまで足を進めた彼をそのまま背後から押し倒す。大の大人の男性2人が倒れ込むものだから、ベッドはギシギシと大きな音を立てていた。 「……こんなことだろうと思ったわよ」 「俺、我慢できなくなっちゃった」 「ずっと我慢してないでしょ」 「いや、我慢してるよ……すぐ挿れてないじゃん」 「そういうのが好きなのかと思ったわよ」 「イリヤの反応が可愛いからつい、そういうことしちゃう」 「最低ね」 「可愛いからこそ虐めちゃうっていうアレだよ」 「意味わかんない」 身体を起こし、彼の両手を掴んで起きるよう促す。向かい合うような体勢になった所で、彼の頭を掴んで下腹部に無理やり近づけた。 「ッ!」 「イリヤ……舐めて、此処」 「いきなり押し付けるとか酷いわね……アンタ」 「早く、舐めて……」 「、分かったわよ……」

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