7 / 8

7

〝足長おじさん〟 ロンドンで出会った、僕だけの足長おじさん。 『ーーっ、ふふふ、』 凄くしっくりくるネーミング。 長身で優しい雰囲気のその人には、ピッタリの呼び名。 『それじゃぁ、僕はあなたにたくさんの手紙を書かなきゃですね』 『クスッ、そうだね。ついでに写真なんかも送ってくれると嬉しい。君がこれから見るいろんなものを、この老いぼれにも見せてくれないだろうか』 『勿論っ』 「あ、見つけた! おーい!!」 人混みの中僕を呼ぶ声に振り向くと、ブンブン手を振ってる友人。 『お迎えも来たようだね。さぁて、私は行くとするか』 『ぁ、あのっ』 『ん?』 『また…会えるでしょうか……』 シルクハットを落とさないよう手で支えながら、長身の体を見上げる。 『あぁ、会える。 なんたって私たちは運命なんだ。きっと会う予定なんか無くても、またこうして偶然会える日が来るさ』 『そう、か…そうですね。でも、次会うときは奥さんを紹介してほしいな』 『君さえ良ければ。その時君にも大切な人ができていたら、是非教えてくれ』 『はいっ』 僕の大事な運命の番が愛した人。 次は僕もちゃんと挨拶して、ずっと不安と戦っているその人に心から安心してもらいたい。 (僕も、運命の番以上に愛せる人を…見つけれるのかな) 生まれてここまで18年間、ずっとあなたのことしか考えてこなかった。 これから先、僕はどうやって生きていこうかーー 『周りを、よく見てごらん』 『へ?』 『幸せなんてものはね、実は案外近くに転がっていたりするんだ。だから先ずは自分の近くへ目を向けて、それから遠くを見るといい。 大丈夫、君は強い子だ。きっと見つけられるよ』 最後にゆっくり頬を撫でられ、『それじゃあね』とその人は人混みの中へ静かに消えていったーー 「やっと見つけた!お前どこ行ってたんだよ、ったく……はぐれると危ねぇっつっただろうが。 ん、今まで一緒にいた奴は?なんか話してなかったか?」 「あぁうんっ、そうなんだけどもう行っちゃって……」 「へぇ。ってかαだったのか、匂いがやべぇ…何もされなかったか?」 「ないよ!本当に大丈夫だから、その、」 「はぁぁ……良かった。まじで気をつけろ馬鹿」 汗ばんだ体でぎゅっと抱きしめてくれる友人。 幼い頃からいつも一緒で、βなのにαの先輩にも噛み付いていく凄く勇敢な人。 「お前が運命の番と出会うまでは守ってやるよ」って、そんなことを言ってくれた…ぶっきらぼうだけど優しい幼馴染で…… ーー嗚呼、そうか。 「……ふふふ、」 「どうした?」 「んーん、なにも」 (もしかしたら、) もしかしたら、案外早く僕の大切な人は見つかるのかもしれない。 あの人も、近づいてくる幼馴染の匂いや雰囲気で分かったのかな? だから『近くから』なんて言葉かけてくれた? わからない……けれど。 ポケットに手を入れると、さっき貰った名刺の感触。 それをキュッと握りしめて前を向く。 「ここに来て、良かった」 これまでの18年間とは確実に違う、これからの日常。 不安なことの方が多いけど…でも絶対に大丈夫。 ーー僕は、僕だけの幸せを 必ず見つけられる。 「……なんかお前変わった? つうか、その帽子なんだよ」 「あぁこれ? これはね」 大切に手入れされている、年季の入ったシルクハット。 これは…… 「ーー〝ロンドンの足長おじさん〟に、貰ったんだ」 fin.

ともだちにシェアしよう!