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僕たちの答え 6

「雪哉、心配かけてごめんな。 俺はもう大丈夫。マッスーとも見ての通り。 大好きな人達に囲まれて、こうやって祝って貰えて……。俺、今が一番幸せだよ」 透の腕を掴み、さり気なく引き寄せながらそう告げると、雪哉は少しの間呆けたあと、心底ホッとしたような表情を向けてきた。 「よかった……。和樹が幸せならそれでいいんだ」 「ありがとう。ずっと心配してくれてたもんな。でも、もう大丈夫だから」 そう微笑みながら、雪哉は和樹の手を握って引き寄せるとそっと背中に腕を回して抱き締めてきた。 「雪哉?」 「……ッ、良かった……ホントに、良かった……ッ」 耳元で聞こえる震える声で泣いているのだと気付く。 雪哉は、自分よりも遥かに大人びているようでいて、本当は誰より泣き虫だ。 「自分の為に泣いたり怒ったりしてくれるダチは貴重だぞ? 大事にしてやらないとな」 隣にいる透にそう言われて、和樹は力強く首肯した。 「うん……そうだね。本当に」 本当に、自分はいい友達に巡り会えだと思う。 高校で出来た友達は一生の友なんて言うけれど、きっと本当なのだ。 「たく、雪哉。抱きつくなら俺にしとけよ」 「あれ? 橘先輩、ヤキモチっすか?」 「はぁ!!? ちげぇわ! くそっ! 変なこと言うと埋めんぞ!」 雪哉を引き離し、頬に引きつった笑みを張り付けた橘が和樹に食ってかかる。 久しぶりに感じる懐かしい空気感にその場にいる誰もが笑顔になった。 高校3年間苦楽をともにしてきた親友達もみんなそれぞれの幸せを掴み、これからは別々の道へ互いのパートナーたちと歩いていく。 それがなんだかもどかしくもあるし、くすぐったい。 その先にどんな未来が待っているのかはわからないけれど、きっとこの先も楽しいことばかりではないだろう。 それでも、大切な仲間と一緒ならば乗り越えていける気がした。 「ほれ、じゃあそろそろいいか?  ナオミさんが待ちくたびれてるからそろそろ乾杯しようぜ!」 アキラの一言で我に返る。 「あはは、そうだね。ごめんナオミさん」 「いいのよ。気にしないで。ほら、透ちゃん。乾杯の挨拶!」 「えええっ!? 俺!?」 「当たり前じゃない。透ちゃん以外にいないでしょう?」 ほら、とグラスを渡され、透がコホンと咳払いを一つ。そして、一歩前に出ると和樹に少し恥ずかしそうな視線を向けた。 「えっと……。まぁ、なんだ……。色々言いたいことはあるけど、……とりあえず。和樹、合格おめでとう!これから、仕事仲間として一緒に頑張っていこうな」 「あはは、改めて言われるとなんか照れる。――うん、こちらこそよろしくお願いします」 「よし、それでは!――乾杯!」 透の掛け声で、皆一斉にグラスを掲げる。 自分たちの出した答えが正解どうかは今はまだわからない。 だけど、透と共に歩く道はきっと楽しいし、幸せだと確信できる。 ――だって、俺には素敵な仲間たちが居るから。 透と目が合い、お互いにほんの少しの気まずさと溢れんばかりの愛しさを感じながらクスリと笑いあう。 カチンと涼やかなグラスの音を聞きながら、和樹は幸せを噛み締めていた。

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