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3「魔物」と「人間」 12
「うぅっ……ん、ぐっ……」
後ろと股間を犯しているのとは別の何本かが、こちらも束になって唇に卑猥な身をこすりつけてくる。
口淫を強要するつもりなのだと察して、イルフィは固く唇を引き結んだ。
これ以上体内にハヴェルでないモノを押し込まれたくなった。この一線だけは越えたくないと、必死に唇と門歯を閉ざす。
「そうそう、そのくらい抵抗してくれなくちゃ練習台にならない。イルフィ……いや、イルフィニアン。もう一度、勝負だよ」
顔の両脇に手をついて覗き込んでくる彼と目が合った。
――――合わせられた。
「っ……!」
一匙の紅を孕んだ闇色が、石を投げ込んだ水面のように揺れる。
泣いている? と思ったのは一瞬で、その黒が赤く染まっていくのを見て取った途端、イルフィは頭を殴られたような衝撃を覚えた。
痛み、酩酊、世界がぐらぐら回っている気さえする。
ハヴェルの赤い眼差しに、意識が乗っ取られていく。
(……操られる!)
魔物にとって魔力や術の練度の差が絶対なのは、より力をもつ者がもたざる者を意のままに操ることが出来るからだ。
ハヴェルは今、人間的な腕力ではなく、魔物の上下関係を決める魔力でもって、イルフィの優位に立とうとしている。触手の魔物とは比較にならないほど高等な、元『魔王』であるイルフィを支配しようとしているのだ。
「ぐっ……うう、ううっ……!」
天啓のように悟る。
ハヴェルが出かけていたのは、魔力を高める実戦のためだ。
『勇者』によって多くの魔物が討伐されたが、それでもまだ相当な数が残っている。『勇者』の威光により王都や人間の住処には手を出しづらくなっているだろうが、例えばこの森や人里離れた場所では、『魔王』の統制から解き放たれた魔物達が、思い思いの活動を再開していることだろう。
ハヴェルはそれらを「練習台」とし、魔力を磨いていたのではないか。
「イルフィ、僕はね、『魔王』になりたいんだ」
思考を読んだかのようにハヴェルが語りかけてきた。
同時に、彼の魔力がイルフィの心を侵していく。
従え、おまえは弱い、僕の言うとおりにしろ。
抗えない強さで頭の中を黒く塗り潰していくハヴェルの魔力は圧倒的で、彼の言葉が本気であることを裏付けていた。
「『勇者』なんて結局、魔物を力で抑える『魔王』と役割は変わりない。人に害を為すか為さないか、人から見た違いでしかないよね」
だから『勇者』になった自分は、『魔王』にだってなれる。
「魔物の力を借りるまでもない。高めた魔力と技があれば、一人で国くらい滅ぼせる。――復讐は僕が引き継ぐよ、イルフィ」
(駄目だ! おまえが手を汚す必要なんてない!)
叫びたいのに、引き留めたいのに、イルフィの意思はもうほとんどその手を離れていた。
「うっ……はっ、あむっ……!」
頤を無理矢理上下に離されたように、容赦ない力でイルフィの口の戒めは破られた。
すかさず押し入ってきた触手に喉まで犯され、息苦しさと圧迫感にえずくも、そのぬめぬめした長いものを舌が勝手に舐めしゃぶりだす。
「んぐ、ぅっ……」
強烈な苦みに涙まで滲むくせに、操られた口は膣のように収縮を繰り返し、触手を男根のように味わっていた。
その間にも後孔をこじ開けようとしていた触手が狭い入り口に侵入し、イルフィは上と下の口両方を同時に犯されてしまう。
射精することのない触手は、一方的にイルフィの性感を煽るだけで果てがない。
花芯の精道には細い触手が潜り込んできて、イルフィ自身の射精も封じられている。
高められるだけ高められても出口のない熱が、イルフィの中で荒れ狂った。
(ハヴェル!)
イルフィは思わず、ハヴェルを縋る眼差しで仰ぐ。
だがハヴェルは、触手達に陵辱されているイルフィを悠然と眺めるだけで、一向にやめさせる気配がない。
このままでは狂ってしまう。太い触手を口に出し入れされ、腹の中の肉壁を激しくこすられながら、イルフィは息も絶え絶えに悲鳴を上げた。
「も、無理……無理、だか……あうっ、ハヴェル、ハヴェ……っ!」
「かわいいね、イルフィ。これだけ苦しめば、僕に対する罪悪感も少しは薄れるでしょ?」
(……え?)
思いもかけない言葉に、イルフィは何を言われたのか一瞬理解出来なかった。
その隙に後ろの触手が奥を激しく突き上げ、あうっ、とイルフィは背中を仰け反らせる。
「見てればわかるよ。どうしてイルフィが僕を受け入れてくれるのか。……僕が、可哀想だからだよね」
触手がイルフィの股を大きく開き、ズブズブ犯されている秘部をハヴェルに見せつける。男根をくわえたイルフィのメス孔は、限界まで広げられて縁を赤く染めていた。
上の口も大きく開いたまま出し入れを繰り返され、粘液と唾液の混じったものが端からあふれ出ている。
顎を伝い落ちて胸を汚し、触手に捏ねくり回されて尖った乳首にまでしたたり落ちた。
「大好きなイルフィ。……でも、もういいよ」
体中を触手に犯されたイルフィの瞳は、最早焦点を失っていた。メスとして体は反応しているが、意識は既にない。
それをわかった上で、ハヴェルはイルフィに語りかける。
「イルフィは一度も、僕の質問に答えてくれなかった。あの時も、今もだ。だから、僕も言わないでおく」
イルフィと同じ透き通った赤に染まりきったハヴェルの瞳には、さまざまな感情の火が灯っていた。
愛しさ、悲しみ、悔しさ、懐かしさ、苦しみ、憎しみ、そして――――。
「……じゃあ僕、行くね。大丈夫、この屋敷に居さえすれば、魔物にも人間にも襲われないから」
ハヴェルがベッドから腰を上げる。
イルフィの花芯に巻き付いていた触手がするすると身を引いて、栓をされていたその先端から、勢いよく白蜜があふれだした。
「あ、あぁ、あアアぁあアああ……!」
狂ったような絶叫とともに、イルフィの体が大きく跳ねる。ビクビクッ、と震えるのに合わせて白蜜が迸り、胸にまで飛び散った。
触手が口や孔から抜け出した後も絶頂は長く続き、一人で腰を振り立てながらイルフィは何度も精を噴き上げる。
膣代わりにされていた口は開きっぱなしでよだれを垂らし、シーツにはイルフィのあらゆる体液が水たまりのように染みを作っていた。
「……ハヴェ、ルぅ……」
いつの間にか触手の魔物は姿を消していて、心も体も無惨に犯され尽くしたメスの体だけが、汚れたベッドの上に横たわっている。
正気を失ったままのイルフィがその名を呼んだ時、ハヴェルは既に屋敷を出ていった後だった。
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