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4「魔王」と「勇者」 16

 ベッドの上、裸で抱き合いながら股間をこすりつけ合う。  深く舌を絡めて唾液を交換しながら、昂ぶる熱をまさぐり合うのは、酔うほどに気持ちが良かった。 「ハヴェル……あんっ、イイ、もっと……」  胸に吸い付くハヴェルの頭を撫でながら、イルフィは身を捩って更なる快感を訴えた。  白い素足でハヴェルの腰を抱き寄せ、股間を押しつけたまま誘う仕草で腰を揺さぶる。  今日はもう早く挿れてほしい。  はしたないほどに脚を開いて後ろの孔を広げて、彼の太くて硬いモノを押し込んでほしい。  オスの熱の味を腹の奥が思い出し、キュンッと尻孔が収縮する。  無意識のうちに迎え入れる形に開いた膝を、ハヴェルはたしなめるように優しく撫でた。 「まだ、ダメ。もっとイルフィを舐めさせて」 「だって、そこ……あぁっ」 「弱くて気持ちよくて、大好きなところだよね。イルフィの乳首かわいい、こんなに膨らんで」 「あぅっ……はぁ、ん……」  ぷっくりとした乳首に歯を立てられて、腰が跳ねる。甘噛みされるのはイルフィの一番感じる攻め方だった。悩ましく首を打ち振るたびに、シーツに広がった豊かな銀髪が波を作る。  赤い瞳は早くも潤み、うっすら開いた唇からは、桃色の舌先が物欲しげに覗いていた。 「こっちも、さわって……」  舐めて噛んでいじめていたのとは反対の乳首を、イルフィは見せつけるように自分の指で捏ねてみせる。  ハヴェルは目を細めるだけで手を伸ばしてくれない。  焦らす意地の悪さにすら胸をときめかせ、イルフィはその小さな粒を爪の先で引っ掻いたり、指の腹で潰したりと、より強い刺激を自らに与えていった。 「あ、ふうっ……」  足りない、と濡れた眼差しが訴えると、ハヴェルが舌で弄んでいた乳首をきつく吸い上げる。 「あぁんっ……」  欲しかった痛いほどの快感が背筋を走り抜け、イルフィは思わず腰を振り立てた。  既に硬くなったモノ同士がこすれ合い、先端の滑りで互いの叢がほんのりと濡れる。 「も、ハヴェル……もう」  イルフィは耐えきれず、自ら脚を大きく開いた。  芯を得た自身の奥、尻の双丘を鷲掴んで押し広げ、ヒクつくメス孔をハヴェルの眼前に晒す。赤い襞が覗くそこに、自ら指先をツプリと埋めた。 「ここに、欲しい。奥まで……おまえでいっぱいにしてくれ」  メスとしてますます熟れていくイルフィの痴態に、ハヴェルは我知らず咽喉を上下させる。  魔物であるイルフィの体は十八歳の瑞々しさのままで、肉体年齢だけでいえばハヴェルとは大人と少年ほどの差がある。  「兄」として思慕し「メス」として愛欲を抱く人は、いつまでも若く、そして愛するごとに淫らになっていく。  イルフィと想いを通じ合わせた後、ハヴェルはより魔力を高めることで自らを魔物化しようとした。  人間の世界と決別し、イルフィと添い遂げると決めたのだ。彼と同じ時間を生きていくためにも、彼と同じ種族に変化すべきだと思った。  しかし、イルフィも同じ未来を望んでくれるものだと信じていたのに、彼は予想に反して難色を示した。  先祖返りで魔物に近く生まれたせいで、彼は故郷の中にあって強い孤独を感じていたらしい。  なので自身が魔物であることすら、本心では受け入れ難く感じているのだという。  人間のままでいられるなら、そのままでいる方がいい。私達は本来人間なのだから。  結局話は平行線をたどりそうだったので、ハヴェルが魔力をわざと高めることはしない、ということで一応決着した。  だが、『勇者』として身につけた魔力はそのままで、穏やかに暮らす今でも黒い瞳にうっすらと赤い光が宿る時がある。そのせいか、普通の人間に比べるとハヴェルの肉体の成長はゆっくりしている。  文字通り、今の自分は「半魔」なのだろう。  イルフィと長く一緒にいられるなら、人間でも魔物でもどちらでもいい。  既に『魔王』も『勇者』もいない世界となったのだ。  肩書きなき自分達はこの故郷の森の中、誰にも邪魔されることなく二人で生きていく。それだけが、ハヴェルにとって大事なことだった。 「ハヴェルぅ……あんっ、それぇ……」  イルフィが請うままに男根を突き入れてきたハヴェルは、その長さを教え込むようにゆっくりと出し入れを開始する。肉壁がこすられるたびにじんじんと湧き上がってくる快感に、イルフィは甘えきった声で彼を呼んだ。  かつてここに、触手の魔物をくわえさせられた。  ハヴェルの術とはいえ彼の体以外のモノで犯されたことを、彼を深く愛せば愛すほど、悲しい記憶として思い出す。 「ハヴェル、ハヴェル……」 「うん、なに?」 「もう、おまえ以外を、私に……あうっ、私の中に、ああっ……挿れたり、するな……」 「……そんなの、あたりまえだよ」  思い至ることは同じだったのだろう。一瞬眉をひそめた彼が、少しふて腐れたように腰を突き入れる。 「うあっ……あ、ああ……」 「もうあんなことしない。今は、イルフィが何で僕に抱かれてくれるのか、知ってるから」  可哀想な子への罪滅ぼしのつもりだった。彼もそう感じていた。  けれど彼への愛しさはずっと心にあって、体を重ねているうちに、「弟」への親愛の情は、「男」への恋慕へと育っていったのだ。 「好きだ、ハヴェル」  想いが誤りなく伝わるよう、イルフィは両腕を広げて彼を迎える。 「僕も好き。子どもの頃からずっとイルフィのことが好き。好きだよ、好き、僕だけのイルフィ」  抱き合ったまま腰を揺らし、高め合い、深い口づけを交わし合った。  ゆったりと寄せては返す波のようだったハヴェルの打ちつけは、やがて速度と力強さを増し、小刻みに肉壁を刺激するものへ変わっていく。 「イルフィ、奥ね、吸い付いてくるよ……」  熱で上擦ったハヴェルが耳元で囁き、そのまま耳朶を噛まれた。  イルフィは悲鳴を上げたが、それはすぐ嬌声に取って代わり、グズグズに蕩けきった蜜となって、イルフィの口からしたたり落ちていく。 「あ、あ、熱い、すごい……ハヴェルぅ……!」  一突きごとに昂ぶっていくハヴェルに内壁が脈打ち、精をねだるように収縮を繰り返す。駆け上っていくハヴェルの動きに最早全身が揺さぶられ、密着する二人の腹の間でイルフィの花芯も限界を迎えつつあった。  ハヴェルが腹筋にわざとイルフィの先端をこすりつけているのがわかって、その焦れったい刺激にすら、イルフィは悶えるほど感じ入ってしまう。 「ああ、あっ、あう、あああぁあー……!」 「っ……!」  ズンッ、と最奥に重い一突きをした男根を、イルフィの媚肉は絡み付くように締め上げる。  低くオスくさい呻き声と共に、ハヴェルは熱い迸りをイルフィの奥へと叩きつけた。  狭いそこを白い精があふれんばかりに満たし、その感覚にイルフィは陶酔しきった顔で同じく卑猥な蜜を放つ。 「あ、ああ……ハヴェル……んっ」  絶頂を極めた後の徐々に弛緩していく余韻の中、甘い口づけを交わし合うのはこの上なく気持ちいい。  ズルリと長大なものを抜き去られた喪失感を埋めるように、イルフィはハヴェルの舌をますます求める。 「……ん、ふ……」  名を呼ぶより愛を語るより、雄弁な想いの交感に浸りながら、イルフィは無意識のうちにハヴェルの頭を撫でていた。 「……それさ」 「ん?」 「イルフィ、僕の頭をよく撫でるよね。癖なの?」 「いや、これは……何だろう、意識していなかったが、昔の名残かもしれない」  幼かったおまえの頭は、ちょうど撫でやすい位置にあったから。  そう言うと、彼はちょっと困ったように笑った。 「僕、大人なんだけどな。何なら今は、イルフィの方がずっと小柄でしょ」 「……嫌ならもうしない」 「ううん、嫌じゃないよ。好きなだけして」  イルフィに可愛がられるの、嬉しいから。  穏やかに目を閉じて、胸に頬を預ける彼は、イルフィがわざわざ面影を重ねなくても子どもの頃のままだ。  こうして自分に甘えたい時に、自分は傍にいてやれなかった。だから彼は孤独から逃れるように自分を追い求め、歪んだ執着を無理矢理の行為で示しさえした。  本来はこんなに優しく、愛らしい子なのに。  自分が彼に与えた傷を思うと、今でも胸が苦しくなる。  しかし、その心苦しさを罪悪感として濁らすのではなく、これからずっと慈しんでいくことで彼への贖罪に、そして自分と彼の幸福への道しるべにしていきたい。 「ハヴェル。……私の愛しい子」  胸に抱いたハヴェルの温もりに包まれながら、イルフィは子守歌を歌うようにその髪をしばらくの間撫でていた。 了

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