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第18話
テストの結果は───
堀井の断トツ一位。
ここは上位十位までは発表するらしくて、僕もその中に入ってはいたけど……。
「凄いね、たっくん。転校したてで、授業抜けちゃったこともあるのに、ホント凄いよ」
田上はそう言ってくれたけど、堀井のことは何も言わない。堀井の断トツ一位は想定内、って言うか当たり前ってこと?
なんだか微妙な気分。
学校内全体はテストから解放されて、なんとなく浮かれてる空気。
窓の外の葉の落ちた木々をボーッと眺めながら、僕は寮の机の前に座っていた。
「……すく」
「………………」
「佑」
え?
「え、何?」
堀井の声で我に返り、声のほうを振り返る。
「外出、するんじゃなかったのか?」
「あ…、ああ、行くよ」
ここに来て、かあさんの病院に行った以外の初めての外出。
「たっくんと外出するの初めてだね。堀井も久しぶりだし」
田上はなんだか凄く嬉しそうだ。
普通の外出は夕食までには帰らなければいけないらしいから、行ける範囲は自ずと限られてしまう。それよりも帰りが遅くなる場合は、事前に届出と許可が必要らしい。
それでも、テストも終わり、季節は冬で、冬の一大イベントと言えばクリスマス。
クリスマスが終われば、冬休みで───
冬休み、かぁ……。
山を降りた所にある街は、クリスマス一色。
僕たちも色々なショップを回ってクリスマスグッズを見て、今はカフェで昼食をとって食後のコーヒータイムだった。
「たっくん」
堀井がトイレに立って、田上と二人。
「なんか、元気無くない?」
「え?そんなことないよ」
田上が少し上目づかいにキョロっと僕を見る。
「……冬休みって、みんな家に帰るんだよね?」
「あー、そうだね」
「寮に残る奴とかいるのかな?」
「いや、基本、学校自体が閉まるから…」
「そう…だよね」
コーヒーカップを両手で包んで、カップの中のコーヒーを見つめてしまった。
「たっくん、もしかして家に帰りたくない、とか?」
顔を上げると田上の真っ直ぐな視線があった。
家に帰りたくない、のもあるけど……。
そこに堀井が戻って来た。
「悪い。俺、このあと別行動する」
「え!?」
僕と田上はハモってしまった。
「ホント、突然悪い」
堀井はそう言いながら、自分の分の食事代以上のお金だけ置いて、一人で店を出て行ってしまった。
田上を見ると、田上もわからないと言うように首をかしげた。
翌日も堀井は朝食後、一人で外出してしまった。
田上に誘われたけど僕は断って、人がまばらなセンターに音楽ソースとイヤホンと昨日本屋で買った文庫本を持ち込んで、すみのテーブルに観葉植物の影に隠れるようにすわった。
本の字面だけを追っている。文章も音楽も、どちらも頭にも心にも入って来ない。
胸の中にチリチリとした苛立ちのようなものがある。
急に片方のイヤホンが取られ、その耳元に、
「佑」
とささやく声。
「う…ぁッ」
驚いて見ると、原さんだった。
「び……っくり、させないでください」
「一人なんて珍しいな」
原さんは僕のすぐ側にイスを引っ張ってきて、背もたれに両腕を乗せ、そこにアゴを乗せた。
「………………」
「ん?堀井と決裂したか?」
僕が黙っていると、原さんはそう聞いて来た。
「堀井は関係ありませんよ」
「でも一人ってことは、堀井は居ないってことだろ?」
「そんな、年中一緒に居る訳じゃありません」
「ふ〜ん」
自分でもわからないけど、苛立った声が出てしまった。そんな僕を、原さんはからかうでもなくただじっと見ている。
「………………」
目をそらした僕に、原さんは、
「佑、少し歩かないか?」
そう言った。
原さんに促されるまま、僕は外に出た。
林の中を肩を並べて歩きながら、何か話さなきゃ、と話題を考えるけど何を話せばいいのかわからなかった。
「堀井に置いてけぼりくらったのか?」
「だから堀井は…」
「アイツが朝、校門のほうへ歩いて行くのを見かけた」
「堀井が出かけたの知ってるなら、わざわざ俺に聞かないでください」
我ながらトゲトゲした口調だと思った。
深呼吸をひとつする。
「原さんは、ご家族は?」
原さんは面白そうに僕を見る。
「俺の家族?」
聞いちゃ、いけなかったかな?
「親父は俺が小さい頃に死んだ。お袋は元芸者。兄貴が一人いて、今は地方の大学に行ってて一人暮らししてる。おまえは?」
「うちは、母親が俺産んで間もなく死んで、親父が再婚した相手も俺が中一の時離婚して出て行ったから、親父だけ」
「じゃあ、この間重体だったってのは…」
「正確には血の繋がりも戸籍上も、今はなんの繋がりもない赤の他人」
「そうか…。堀井のことは、知ってるか?」
原さんが低く聞いてくる。
「田上から聞きました」
「ん…」
「原さんはご家族と仲いいですか?」
「ん〜……」
原さんは珍しく天をあおいで考え込んだ。
「お袋も兄貴も変わってるからなぁ」
「原さんより、ってことですか?」
ちょっと笑って聞き返すと、
「やっと笑った」
原さんは僕を見てそう言った。原さんの手が僕の首に置かれ、顔が近づいてくる。
僕の唇に原さんの息がかかるほどの距離で、
「抵抗しないのか?このままキスするぞ」
そう言われた、次の瞬間、
「面白くない」
原さんはそう言った。
え?
アゴを取られた。
「弱ってるおまえにキスしても面白くない」
弱って…?僕が?
「あらがったり、恥ずかしそうに顔を赤くしたり、怒ったり、いつものおまえはそうだろう?」
凄く近い距離で原さんはそう言う。原さんの表情はマジだ。
「今のおまえなら落とすのは簡単だ。だけど俺は言ったよな?おまえを正攻法で落とすと…。その気持ちは今も変わってない」
原さんは僕の額にキスした。
「何悩んでる?」
……わからない。
僕は首を振った。
「僕、弱って……?」
「ああ、ヘロヘロだ」
いつの間にか原さんの手は僕の腰に回されていて、下半身が密着している。
「原さん、くっつき過ぎ」
「お、やっと気がついたか。少しは浮上してきたか?」
原さんは尚も僕の腰を抱き寄せる。
「原さん、離れてください。殴りますよ」
原さんが楽しそうな笑みを見せたところで、
「あ、ごめん!」
と背後で声がした。首だけ振り向くと、そこには例の体育用具室の時のもう一人が…。
「よう、高田。一緒に遊ぼうぜ」
「え?」
原さんの言葉に、僕と高田と呼ばれた人の声がハモった。
一時間後───
僕は原さんたちが入ってる第一寮の娯楽室に居た。
そこで、原さんと先程の高田さん、それから原さんに呼ばれたデート中だった落合さんと竹内、そして僕の五人が、ボードゲームで遊んでいた。
ボードゲームが広げられたテーブルには、竹内が作ってきたおにぎりやサンドイッチ。他にも落合さんが街で買い込んできたという食べ物や飲み物が並んでいた。
「竹内って料理うまいんだね。よくこの短時間でこれだけ…」
僕がそう言うと、
「うち親が共働きだし、妹と弟がいるし、子供の頃からお腹が空くと僕が何か作って食べてたんだ」
と恥ずかしそうに笑った。
「落合さんにお弁当作ってきたりするの?」
小声で聞くと、また真っ赤。
はい、図星ね。
「時々…。食堂のご飯だけじゃ飽きちゃうんじゃないかと思って…」
うつむいてそう言った竹内が、ハッとしたように顔を上げて、
「今度中野にも作ってこようか?」
と聞いて来た。
「好きな人にエネルギー集中しときなよ」
そう答えた僕に、竹内はまた赤くなってうつむいた。
「今日、堀井は?」
竹内がしてきた質問に、
「さあ、朝から一人で出かけた」
僕がそう答えると、
「ああ、だから寂しくて原さんに遊んでもらってるんだ」
竹内がうなずきながらそう言った。
「え!?ちげぇよ」
否定した僕に、竹内はクスクス笑って下から僕の目をのぞき込むようにした。
「中野は素直じゃないなぁ」
「いや、だから…」
なおも否定しようとした僕に、
「お〜い、佑、おまえの番」
向かい側から原さんの声がかかる
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