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第1話
呉哥哥は謎が多い。
俺が知ってること。チャイニーズマフィア「蟲中天」の幹部。俺様ヒャッハードSな陰険蛇野郎。趣味はパシリ(即ち俺)をいじめ倒すこと。精力絶倫。貧乳専門風俗店「バンビーナ」の経営者。愛人は現在確認しているだけで4人。備考、隠し子がいる。
トレードマークのベリーショートのピンク髪はもちろん地毛じゃなく染めてる。
悪趣味な舎弟どもが下の毛の色を賭けの対象にしてたのは記憶に新しい。この目で確かめたら頭髪とおそろいのピンクだった。
結論、呉哥哥は俺なんかにはとてもじゃねえが計り知れねえ人だ。長年舎弟として仕えて、逆らったら殺される事だけは身に染みてる。
呉哥哥の辞書に恩赦の二字はねえ。裏切り者は嬲り者にされる宿命だ。一体何がどうねじまがりゃ高笑いしながら愛人の脳味噌ぶちまけられるようになるのか、そのへんは突っ込みたくない。裏社会で長生きしたけりゃ目と耳は塞いどけ。
一方、|黒後家蜘蛛《ブラックウィドウ》の情報。「蟲中天」が大昔に仕切ってたアングラショーの元花形。
組織の男に惚れて逃避行を企てるものの、|情夫《イロ》を殺されてブチギレた挙句追っ手を返り討ち。今じゃ娼婦に化けて男や女を食い殺す、賞金首に身を落としちまったそうだ。
ここからが重要。俺が黒後家蜘蛛の情報を探ってたのは上の……呉哥哥のお達しだ。曰く呉哥哥と黒後家蜘蛛は昔の馴染みであり、腐れた因縁があるとかないとか。
「腐れた因縁ってなんすか?」
豪邸の前にとめた車の中、運転席で聞く。呉哥哥は助手席でリボルバー銃に弾丸を装填していた。銃把に龍が巻き付いたド派手で悪趣味な銃。
ぶっちゃけ二丁拳銃は実戦向きじゃない。
巷に氾濫するフィクションのせいで誤解されがちだが、ただでさえ反動がキツいのに二丁だとその倍が返ってくる。俺もリアルに使いこなしてるのは呉哥哥しか見たことねえ。蛇のミュータントだとやっぱ肩関節が柔らかいのだろうか?銃撃戦の最中に脱臼したら自分で嵌め直した、なんて逸話がある位だ。
「愛人だったって言ったら信じるか」
呉哥哥がニヒルな笑みを浮かべてシリンダーを回す。俺は肩を竦める。
「黒後家蜘蛛が蟲中天にいたのはざっと二十年前って聞きましたよ。その時哥哥は何歳っすか」
「11かそこらか」
「11歳で愛人ね。早熟なこって」
「童貞なんざ早く捨てちまうに限る。大事にもってたって腐るだけだ」
「俺の方見て言うのやめてください」
どこまで本気なんだか。真面目に答える気はないと見てそっぽを向く。深夜のアップタウンは静かだった。チャイニーズタウンの猥雑な景観や荒廃しきったボトムのあばら屋を見慣れてると、庭付きプール付きの豪邸が建ち並ぶ区画は別世界にしか思えない。
「格差社会万歳ってか」
「持たざる者の僻みはみっともねえ」
「呉哥哥だってちょっとは羨ましいでしょ」
「お前俺んち見たことあんの」
「ないっすね……」
殆ど事務所に住んでるみたいなもんだよな、この人。それか愛人んちを日替わりで渡り歩いてる。
バックミラーには貧相な東洋人が映っていた。てか俺か。青緑の地にペイズリーの柄シャツが顔色の悪さを強調してる。肺癌で余命三年って所か。
無意味な睨めっこに飽きて右手の車窓に視線を流す。
錬鉄の柵の向こうにはだだっ広い庭があり、常緑の芝生が敷き詰められていた。
「芝刈りのバイトで雇ってもらえねえかな。時給1万ヘル位で」
「グラサン磨きじゃ不満か」
「あれ時給に加算されてるんスか。ただ働きだと思ってました」
「ただ働きだけど」
「やっぱり。ていうか今日は色違うんすね」
俺の指摘に呉哥哥の笑みが深まる。今日のサングラスは黒だ。
「イメチェンもたまにはいいだろ」
「はあ……」
普段愛用してる琥珀のサングラスは軽薄さを底上げするが、黒だと胡散臭さと危険度が爆上がり。率直な感想は飲み込んで生返事をする。
「そろそろ行くぞ。先方がお待ちかねだ」
呉哥哥が顎をしゃくって降り立ち、ドアを開けてそれに続く。豪邸の正門から道を歩いてポーチへ行くと、油ぎった中年男が立っていた。身に付けてるのはオーダーメイドのスーツと革靴、一目で資産家だとわかる。
「これはこれは、はるばるご足労いただき恐縮です」
「こちらこそ、お呼ばれできて光栄です」
薄っぺらい社交辞令と握手を交わす二人を所在なげに見比べる。
「こちらの方は?」
「俺の連れです。ボディガードとでもいいましょうか」
「はあ……」
「邪魔なら車で待たせときますよ」
「そうですねえ、てっきり呉氏のみだと思っていたので……これから始まる鑑賞会は内密にお願いしたいので。万一口外されたら困りますし、同好の士ならおわかりいただけるかと存じますが」
「そのへんはもうばっちり。俺も止めたんですけどね、コイツがどうしてもって聞かなくて」
呉哥哥が媚びた笑顔を浮かべて俺の脚を蹴る。痛てえ。中年男が露骨に興味を示す。
「ということは、彼も?」
「実は……」
呉哥哥が声を潜めて耳打ちする。刹那、中年男の表情が豹変した。俺を見る目に下世話な好奇心と陰湿な嗜虐心がチラ付き、生理的嫌悪で背筋が冷える。
「呉氏も人が悪い。そういうことなら歓迎しますよ、ぜひどうぞ。準備はできています」
粘着質な視線が体の上を這い回って落ち着かない。柄シャツを透視されてるみてえだ。
打って変わった愛想の良さでドアを全開にし、俺たちを招き入れる中年男を追いかけながら、呉哥哥に問いただす。
「いい加減教えてください、寝入りばなの俺を叩き起こしてここに引っ張ってきた理由」
「だから言ったじゃん、個人的なお礼参りだって」
「知り合いっぽい雰囲気っすけど」
「仕事の関係でちょっとな」
「仕事って蟲中天?バンビーナ?それとも他の……」
「詮索うぜえなお前」
「貴重な睡眠時間削っといてそれはないっしょ。パワハラっすよ」
玄関から伸びた廊下には花瓶だの壺だの高価なインテリアが飾られていた。呉哥哥はサングラス越しの視線を斜め上に投げ、言葉を選んで告げる。
「俺様ちゃんの探しもんをアイツが持ってるっぽいから、確かめに来たんだよ」
「探し物っすか。良心とか?」
「面白ェ冗談」
闇の中でも口角がくっきり上がるのがわかった。ズボンの後ろには必要とあらばすぐ取り出せるようにリボルバー銃が挟んである。
正直、嫌な胸騒ぎがしていた。
事務所のソファーで寝ている所を呉哥哥に蹴り起こされ、わけもわからず運転手役を命じられてからずっと、何か大変なことに巻き込まれちまった気がして仕方ない。
ダウンタウンとは段違いに閑静なアップタウンの道路を飛ばしてる最中、しきりに行き先を尋ねる俺に向かい呉哥哥は言った。
『鑑賞会だよ』
『ポルノっすか』
『そんなトコ』
『こんな夜中に?人に運転させて?どんだけ好きなんすか』
この人がとんでもねえ女好きで絶倫なのは知っちゃいたが、さすがにあきれ返った。しかも女が怖え俺を運転手に指名するなんて性格ひん曲がってやがる。
手の込んだ嫌がらせに顔を歪める俺に対し、呉哥哥が念を押す。
『お前、口は固ェよな』
『はあ。なんで?』
『せっかく教えてやった下の毛の色をふれ回らなかった』
そういえばそんなことがあった。マーダーオークションに付き合わされた帰り、呉哥哥に下の毛を見せられた。俺はピンクに賭けてたんで、めでたく総取りになるわけだが……。
『事と次第によっちゃ後始末がホネだから、手伝ってほしいのよ』
呉哥哥の下の毛の色を黙ってたのに大した理由はない。ド直球な下ネタだし、本人が気にしなくても何となく言いにくかっただけだ。
結果、コイツは信用できると見込まれて深夜のお供を命じられたんだから皮肉なもんだ。
どうしてバラさなかったんだよ俺の馬鹿、賭け金独り占めできたのに。悔やんだって後の祭り。呉哥哥と中年男は親密な様子で世間話をしてる。
「素敵な家ですね」
「どうも。親父から相続したんですよ」
「ご結婚はまだ?」
「残念ながら縁に恵まれませんで。さがしてはいるんですが……まあ独身の方が気楽ですよ、この趣味は大っぴらにできませんし。所帯を持ったら隠し場所に困ります」
「天井裏や地下室に放り込んでおかれては?」
「いちいち取りに行くのが面倒で。仕事でストレスがたまった日は無性に見たくなるんです」
「わかりますよ」
「取引先との電話中にサイレンスで流しておくだけでもね……片手はね、空いてますからね」
呉哥哥がにこやかに相槌を打ち、中年男が無邪気に喜ぶ。
照明を絞った廊下の先に豪華なリビングがあった。電気は消えて真っ暗。ソファーの横には三脚の映写機がセットされてる。
案の定ソファーは二脚しかない。やっぱり俺は招かれざる客らしい。特に座れとも促されなかったので、呉哥哥の傍らに後ろ手組んで足ってることにする。ポーズだけなら一人前のボディガードだ。
「ここが私の特等席です。呉氏は右のソファーでよろしいですか」
「もちろん」
中年男が映写機のフィルムを巻く。
「しかし……こういってはなんですが、あなたも変わった方ですね。同族が凌辱されるのに嫌悪感はないんですか?」
なに言ってんだ?
思わず真顔になって男と呉哥哥を見比べる。呉哥哥は肘掛けに頬杖付いたまま、爪先で軽快な拍子を刻む。
「画面の向こうにいるのは俺じゃありませんからね。逆にお尋ねしますが、人間が人間のポルノに興奮するように、ミュータントがミュータントのポルノを見たがるのはごく自然な生理現象じゃありませんか?」
「ただのポルノなら、ね」
あちらとこちらで共犯者めいた笑みを交わすふたり。俺だけが意味不明で蚊帳の外だ。正直、ポルノビデオにはいい思い出がねえ。
仕事の為に仕方なく観たスナッフフィルム、犬用の口輪を嵌められて犯されるスワローの記憶が続けざまにフラッシュバックし、猛烈な吐き気に襲われる。
「哥哥……外出てちゃダメっすか」
「興ざめな発言すんな早漏、本番はこれからだろ」
背凭れにおもいきり仰け反った呉哥哥が逆さまの顔で嗤い、俺に片腕を伸ばしてくる。
不承不詳顔を近付けりゃ、二股の舌が鼻のてっぺんに触れる距離で予想外のことを囁く。
「ドア塞いどけ」
「……了解」
サングラスの向こうで琥珀の瞳が弧を描く。眼光に乗った殺気が伝わり、爪と肉の間から極細の糸をたらす。
「お静かに。始まりますよ」
中年男が映写機のセットを終え、正面の一人掛けソファーに踏ん反り返る。
映写機がカタカタ回りだし、スクリーンに粗い映像を投影する。最初に現れたのは白背景に掠れた黒字のタイトル……『Little Snake』。
コンクリ打ち放しの殺風景な部屋にカメラが切り替わる。どこかの地下室だろうか。床の真ん中に排水溝が設けられていた。
異様な部屋だった。
壁には鉄製の手枷と足枷、バツ印の台座に黒いベルトが備え付けの磔台があり、様々な形状の鞭や責め具が棚に犇めいている。第一印象は拷問部屋。
一体何のビデオだ。またもや悪趣味なスナッフフィルムを見せられるのだろうか。
カメラのアングルが変わった。今度は人がいた。上半身裸の屈強な男と、男に吊られている全裸の少年。年の頃はせいぜい11・2歳か。
『は……』
右半身が灰緑の鱗で覆われている。蛇のミュータントだ。
天井には巨大な鉄のフックが埋め込まれており、男はそこに縄を掛けて少年を吊るしている。
少年の肢体にロープが絡む。灰緑の肌をそなえた未成熟な四肢をくぐり、這いずり、絡み付く。
男は熟練の調教師らしく、少年の後ろ手を一本に括った上で天井から吊るし、胸をしぼるように縄を這わせ、足の付け根へと潜らせる。
複雑な縛り方。扇情的で倒錯的な緊縛ポルノ。
俺が目を吸い寄せられたのは、まだ出来上がりきってない身体の至る所に散らばる新旧痛々しい虐待の痕だ。
『ぐ、ぁ』
裸の爪先が届くかどうかギリギリの高さに調節して吊られ、自重で締め上げる拷問に脂汗が滲む少年を、調教師が揶揄する。
『相変わらず気持ち悪ぃ瞳。ぞっとする』
『ッ……、』
ゴツい手が無理矢理顎を掴んで上げさせる。悲痛に眉を寄せる少年。嗜虐をそそる表情。
どこかで見たことあるインペリアルトパーズの目に殺意と憎悪が爆ぜる。
反抗的な態度が気に食わなかったのか、鼻で嗤った調教師が手荒く縄をしごいて引っ張る。
締め上げられる苦しさにたまらず『ぅあッ、ィぐ』と呻き、裸の爪先で床をひっかく少年。
引き絞られるロープに合わせて縄目の跡が痛々しげに鬱血し、蛇の鱗めいた紋を素肌に刻む。
「いじらしいでしょ」
中年男がうっとりとひとりごち、グラスに注いだウイスキーを嚥下。
スクリーンに大写しになった少年は、窄めた爪先で必死に床を探り、辛うじて重心を保とうとする。
調教師が少年の顎を掴んで低く脅す。
『どうした?教えたとおりに言えよ、さあ。じゃねえとまた脱臼するまで吊んぞ』
太い指が万力めいて顎に食い込む。
『くっ、ふ』
少年はまだ抗っていた。
骨が軋む圧に気力のみで抗い、無造作に伸びた黒髪が遮る眸で調教師を睨む。
しかし痩せ我慢はもたない。
おそるおそる口を開け、また閉め、乾いた喉にささくれた唾を送りこむ。
『……ご、主人さま。今日も俺の、……』
語尾が途切れる。
言葉が続かない。
ぱくぱくと口を開け閉め、遂にくじけて俯くのを許さず、調教師が下劣に笑って前髪を掴み起こす。
『言え。言わなきゃ仕置きが酷えぞ』
節くれた手が鱗の浮いた頬をなぞり、いやらしく首筋を滑りおりて、薄く未成熟な胸板に掛かる縄をたどる。
縄に指を掛けてずらし、わざと乳首の上にあててしごけば、突起と縄目が擦れる痛痒い刺激に少年が息を荒げだす。
『ぅっ、ふぅっ』
『荒縄でいじめられんの好きかマゾガキ、コリコリのクリ乳首が勃ってんぞ』
切なく尖りきった乳首を縄で摩擦され、俯けた額に玉の汗が結ぶ。
これ以上粘っても責めが酷くなるだけだ。少年がプライドを擲ったとて、誰も責められまい。
『今日も俺を、仕込んでください』
『せがまれると腕がなる』
調教師が勝ち誇った笑みを広げ、鞄で持参した道具を手際よく並べていく。
巨大な男根を模したバイブレーターやディルドに大小のローター、オナホにハーネス、カテーテルや手錠……
『今日は特別サービスだ、好きなの選ばせてやる。さあ、どれから試す?選べよ』
『……ぁ』
錯乱の兆しで焦点のブレるインぺリアルトパーズの瞳に、こみ上げる涙がしめやかな膜を張る。
『どうした、選べねぇなら俺が決めるぜ』
『ま、待って』
少年が控えめに顎をしゃくり、右端の一番小さいローターを示す。
『……その隅っこの、小せえの』
殆ど消え入りそうな声だった。
『コイツがいいのか?ガバガバの穴にゃ足りねえだろ』
『それで、違、それがいい』
慌てて言い直す。調教師が高笑いする。
『……それが好き、だから。びりびりくるんだ』
『わかった』
調教師が黄ばんだ歯を剥いてせせら笑い、小型ローターをとる……と見せかけ、その隣の巨大でグロテスクなバイブを掴む。
少年の顔が凍り付く。
『なん』
「あらら」
中年男が野次をとばす。呉哥哥は退屈そうだ。
俺は何もできない。
ただ突っ立って見ているだけ。
調教師がどす黒いバイブを持って少年の後ろに回る。全裸で吊られた少年は可能な限り首をねじり、背後に立った男に訴える。
『違、それじゃない隣の』
『これが欲しかったんだろ?違うならちゃんと何が欲しいか言ってみろ、脳味噌退化した腐れミュータントだって口が付いてりゃ人間サマとおなじ言葉話せんだろ』
『隣、ろ、ローター、ピンクで丸っこいの。こないだ使ったヤツ、俺の前にテープで貼り付けて、な、中までたくさん突っ込んだじゃん』
『ああ思い出した一日中クソできなくて辛かったよなぁ、お前ときたら床でのたうちまわって傑作だった。有線タイプでよかったよな、じゃなきゃとるのに苦労した。しまいにゃ電池切れちまって、その場で踏ん張らせて産卵させたんだっけ』
『絶対入んねえ、裂けるって』
すっかり心が折れた少年が啜り泣く。中年男の股間が膨らんでいく。スクリーンの青白い光が呉哥哥の顔を照らす。
調教師が少年の股ぐらに膝を割り入れ、開脚のまま固定する。膝頭でトントン会陰を刺激すれば、まだ皮も剥けてないペニスがそそりたっていく。
『あっ、ぅあ、っあ』
『感じてんじゃねーか淫乱』
スクリーンの少年は完全に狼狽しきっていた。
これから始まる責め苦から逃げようと身をよじり、しかし暴れるほど縄が腕に食い込んで囚われる。
調教師の手に握られたバイブは赤子の腕ほどのサイズがあった。亀頭は丸く太く誇張され、粘膜を刺激する疣が無数に付いている。
『|対不起《ごめんなさい》、|请原谅我《ゆるしてください》!』
声変わりもしてない声で許しを乞い、叫ぶ。
『大人しくしねェと鱗剥がすぞ』
『口でやる、あ、あんたのしゃぶるから。噛まないって約束する、吐かないから、今度はちゃんとよくす、っあぐあぁッ、ぁあ』
調教師が右上腕の鱗をひっかく。
『あんた?』
『違、間違い、ご主人様。頑張ってしゃぶります、作りもんはやだ、ご主人様のでけえのいい』
『あとでな』
爪の先端が鱗にめりこむ痛みを堪え、泣き笑いで媚びる少年を蔑み、凶悪な形状の極太バイブに透明なローションを塗す。
根元から先端まで粘着質のローションを塗された男根が、淫猥な糸を引いて少年のアナルにめりこむ。
『あ、ぁあ』
縄がぎしぎし軋む。中年男の息が荒くなる。呉哥哥は動かない。俺は何もできない。
スクリーンの向こうで誰かによく似た少年が痛め付けられるのを、ただ見ているだけ。
ソファーから身を乗り出した中年男が、少年の股間を指さして呉哥哥に同意を求める。
「あはっ、本当に|小蛇ちゃん《リトルスネイク》だ!」
「ですねェ。全然育ってねえ」
バイブの先端が無理矢理アナルをこじ開けていく。
下肢が裂かれる筆舌尽くし難い激痛と圧迫感に呼吸が途切れ、臓物が押し上げられる。
『っ、あぐ、ぅうや、やめ』
抵抗虚しくバイブが進んでいく。喉が仰け反り背が撓い、声にならない絶叫が脳髄を沸騰させる。
アナルが裂けてぽたぽた血が滴り、華奢な下肢を伝っていく。
『くるし、ぁぐ』
『我慢しろ、じきに慣れる』
『抜い、ッぐぅっ、ぁ、や、な、なんでもする、しますから助け、ほどいて』
調教師がハイペースでバイブを抜き差し、ローションと血が混ざりあって淫猥な水音をたてる。
『あっ、あっ、あっ』
『感じてきたな』
調教師が勝ち誇る。バイブを抉りこまれた少年の股間に、赤い小蛇がもたげていく。
「リトルスネイクのおでましだ」
中年男が息を荒げて股間を揉みしだく横で、呉哥哥が眠たげにあくびをする。
『こんなもんじゃねえぞ本番は』
本番ってなんだよ。
『ふっ、ぅア、ぁっあっ、許し、んぅッぐ、やだ、破けちま、あッ』
もういいじゃねえか。解放してやれよ。
何だよこれ。俺は何を見せられてんだ。スクリーンに映ってるガキは誰だ。
絶妙な捻りを咥えたバイブがぐぽぐぽ下品な水音を伴い、血とローションのぬかるみを捏ね回す。
息を熱く荒げた調教師がガキの背中に密着し、満を持してスイッチを入れる。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』
ただでさえ巨大なバイブが電動の唸りを上げ、体内で狂ったように暴れだす。
『あっ、あっ、痛ッあっ、ごしゅじんさま助け』
「可愛いなあ」
だらしなくニヤケた中年男が股間をしごきまくる。
『ッあ、ふぁ、ン――――――――――――――――っ』
『ケツマンコから感じまくったイイ声だマゾガキ、ショーを見に来る金持ちの変態どももしごいて悦ぶ』
『やっ、ぁぐ、んぅ、ふぅうッ、ふぁっあ』
調教師が恍惚とほくそ笑んで、ラバー製のどす黒い柄をレバーの如く上下させる。
汗と涙とその他の体液を飛び散らせて跳ねる少年をとくと眺め、緩んだ孔からバイブが抜け落ちないように、縄で固定し縛り直す。
ぶしゅぶしゅローションの飛沫をしぶくアナルにバイブを固定され、既に呂律の回らない少年が、涎を垂れ流して口走る。
『くるし、腹んなかずぼずぼおかし、ぁあ』
固く太く張った亀頭で前立腺を叩かれ、宙吊りの少年が嗚咽の溶け混ざる喘ぎをもらす。
『あっ、ぁっあ、ンっあ、ぬい、おねが、やだも、死んじま』
『色んな汁がまざってきったねー顔』
『ゆるしてくらはい、ごしゅじんらま』
『具体的に』
『おっ、れのっ、ンあッ、ケツマンコに入ってるデケエの、ふぁっひ、バイブっ、ぬいてくらはい、おれがクソひるメス穴、あぁッん、ごしゅじんらま、ッああ』
『知ってるか、蛇はケツから卵を産むんだ。総排泄腔っていってクソと卵をひりだす孔が一緒なんだ、人間でいやマンコとケツ孔が同じなんだよ、全くスケベな体だよなあ!てめェのもぐぽぐぽ飲み込んで広がってんじゃねーか、淫乱で赤い媚肉が丸見えだ。どうだ、今度は卵を食わせてやるからこっから産めよ!』
『死ぬ、たすけ、ンっあ、っあッは』
『次のメインは産卵ショーできまりだな』
『ぬい、てください、口答えしません、も、ッは』
『小蛇ちゃんが発情してるぜ。ああそうだ忘れてた、ローター欲しかったんだよな今くれてやっから』
『待っ、て』
調教師が一旦離れてからローターを持って戻り、狂ったように首を振りまくる少年の正面に屈み、片足にコードの余分を巻き付けていく。
『喜べよ、お待ちかねのローターだぜ』
ローターはちょうど鈴口の真上、射精を封じる位置におき、手術用テープで固定する。
プラスチックの卵で鈴口を塞いだ男が、震える小蛇をなだめて離れていく。
『たっぷりイき狂え』
仕上げに摘まみを回し、最初から最強で起動させる。
凄まじい振動が半勃ちのペニスを苛み、片やアナルに突っこまれたバイブは肛虐を続け、前後から絶え間なく来る衝撃に仰け反る。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッああぁ!!!!』
尿管を熱い迸りが駆け抜けるものの、ローターが邪魔して射精に至れず生殺しの瞬間が引き延ばされる。
カウパーに濡れ光る小蛇がヒクヒク震え、生白い膝裏がかくかく戦慄く。
『ぁ、くるっし、ぁぐ、イきてッ、はッぁ』
赤ん坊の手首ほどのバイブが暴れ狂って腹をかき回し、甲高い唸りをたてるローターが幼いペニスを揺すり立てる。
『腹ん中ぐちゃぐちゃ、太腿はぬるぬるだな』
『あっ、あっ、あぁや、動かさないで、あッあ』
調教師が柄を掴んで抜き差しするたび、敏感に蕩けた粘膜を巻き込んで前立腺を突かれ、少年が暴れだす。
もういやだ。見たくねえ。映写機が巻き取ったフィルムはまだ三分の一、まだまだ序盤だ。
だってアレは。
スクリーンで嬲られてるのは。
時折口走る中国語の謝罪と懇願。恐怖と嫌悪に剥かれたインペリアルトパーズの目。見たくない。逸らせない。
「可愛いね小蛇ちゃん。可愛いね」
中年男は少年をズリネタにしてる。呉哥哥は長尺のツマらない映画でも見ているような気のなさで、一言呟く。
「この頃は染めてなかったんだよなァ、|まだ《・・》」
俺にだけ聞こえる声で。
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