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『ツバメっていうの? へんなおなまえだね』 これは、いつの記憶だっけ? 『へんっていうなよ!それなら、おまえのそのピンクいろの目もへんだ!おんなみてぇじゃんか』 『っ、ふ、うぇぇ』 『は!? お、おぃなくなって』 そう、俺がまだ幼い頃。 俺の国に久しぶりの訪問があった。 優しそうな王様とお妃様。そして女の子と間違えるほどの可愛い奴。 歳が近いから俺が遊んでやってて、その時のことだ。 『こーらツバメ!また変な事言って泣かせたんでしょう!ちょっとはその歳らしく振る舞いなさい!?』 『ちげーよ!おれのなまえがへんだっていうから、おれだって』 『どうもすいませんうちの子が……』 『全然!慣れてますからね』 互いの母に慰められて落ち着いた頃、ポツリとこちらの母さんが口を開いた。 『〝ツバメ〟というのは、遠い島の鳥の名なんです』 『そうなのですね。その島はどちらの?』 『文献に載っている、あるのかもわからない島ですよ。 その島に生息するツバメという鳥は温暖な気候を好み、その島が寒くなるとより暖かい場所を求め南へ飛ぶんだそうです。そして、また島が暖かくなる頃に戻ってくるんだとか』 『まぁ、頭のいい鳥なのですね!自分で住みやすい場所を探しに行くなんて』 『この子は、生まれた時から姉や周りの子と少し違っていました。これから、きっと多くの出会いが待ち構えてると思うんです。私よりずっと多くの。 ですから、ツバメのようにこの子も自分の住みやすい場所を探して欲しいと思ってツバメと名付けたんです。 ……ってちゃんと話しなさいと言ったでしょう!?』 『はなそうとしたけど、そのまえになかれたんだよ!』 『そんな言い訳聞きません!常識が着くまでは何処にも出しませんからね!?』 『えぇ〜』 『っ、ふふふ』 言い合う俺たちを、羨ましそうに見つめる向こうの母親。 『ツバメくんのようにうちの子も強くなれるといいのですが…… 私に似た目の色を持って生まれてしまって、同い年の子からからかわれる毎日のようでして……』 『そんな…目の色で……』 覗ことした母さんを拒むように下を向くその子。 腹が立って、母さんの手から抜け出しその子の両頬を掴んで、無理やり上に向けさせた。 『ぁ、こらツバメ、やめなさーー』 『なんでしたむくの?』 『……だ、だって、みられちゃやだから…っ』 『なんで、やなの?』 下を向くのはおかしい。隠してしまうのはおかしい。 だって目の色なんて生まれ持ったもの、変えようがない。 なら、もうしょうがないじゃないか。現実を見ないと。 『ちゃんとまえみろよ、にげてちゃだめだ』 『っ、で、でも……』 『おれ、おまえの目すきだよ』 『え……?』 太陽に照らされたその目は、鮮やかなピンク色。 まるで宝石みたいに澄んで輝いている。 『さっきへんって言ったの…おんなみたいって言ったの、やめる。 おまえ、おんなよりきれいだ』 多分、その目は珍しい。 この国の誰もそんな目の色をしてない。 「私もそんな目の色になりたい」と思っても、なれるものじゃない。 『だから、おまえは〝とくべつ〟だ』 『とく…べつ……?』 お前しか持てない色を持って生まれてるんだ。 だからきっと、お前は特別。そう思ったほうが人生楽しくなるはず。 『ぼくが、とくべつ……』 『そうだぞ!なんたっておんなよりもきれいなんだからな!』 『っ、ならぼく、ツバメともけっこんできる……?』 『はぁ?』 どこをどうやったらその思考にたどり着くんだ? 幼ながらに呆れてしまった俺だったけど、一生懸命見てくる瞳とその後ろで静かに涙を落とす母親を見てたら、自然と言葉を発していた。 『あぁそうだな、できるぜ!』 『わぁ……!』 大丈夫、俺は子どもだ。 現実的に無理だと分かっていても、今は目の前の子を元気付けるため嘘のひとつ許されるだろう。 後ろから頭を撫でてくれる母さんの手も「よく気遣いができた、これぞ年相応」と褒めてくれる。 『ツバメくんは本当に聡い子ですね。 有難う。良かったわね、あなた特別な子ですって』 『うん!ぼくもね、ツバメのおなまえへんって言ってごめんなさい。ツバメのおなまえ、すき!』 『おぉ、ありがとな!えぇっと…おまえなまえは……』 『エリス!』 (あぁ、そうだ) 確か、その時のそいつの名前、エリスだ。 少しの訪問だったからすぐに帰っていったけど、仲直りしてからは帰るまで遊んだ。 やけにふわふわした危なっかしい奴で、短時間だったのに「俺が守ってやらなくちゃ」と思うような奴で。 そんなーー 「ー…メ、ツバメってば、ねぇ!」 「……ん、んん…」

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