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ー鼓動ー16
それから朔望はいつも雄介が使っている電子カルテの方に視線を向けるのだ。
「そういう事かぁ……」
そう小さな声で呟く朔望。
「ちょっと足の方見せてね」
そうやって朔望は子供には本当に優しくて声掛けをして上げていた。
「うん! 大分、良くなって来ているのかな? これが治ったら、また海に飛び込むの?」
「うん! だって、折角の夏休みだもん! 楽しまなきゃね!」
「そうだよねっ! なら、早くと治るといいよねぇ」
俺達には見せた事のないような優しい声掛けに笑顔をしている朔望。 ホントある意味、そこは雄介と同じなのかもしれない。
……治さなきゃって声掛けじゃねぇんだな、早く治るといいね。 なんだな。
ホント言葉っていうのが難しいと思う。
確かに言葉の中では傷付けてしまう言葉もあるけど今の流れだと、その言葉がベストなのかもしれないという事だ。
そっか、やっと朔望が何であれだけ頭の回転が早くなってるのかが分かって来たように思える。
「んじゃあさ、もう一回ここに来るのは来週にしようか? それにまだまだ様子見の状態だから痛い思いはしないから大丈夫だよ。 あ、寧ろ、もう痛くないんだったら、もう痛い事はないかなぁ? もう痛い所っていうのはない?」
「うん! 大丈夫!」
「そっか、じゃあ」
朔望はそこまで言うと小さな声で、
「後は、本当に治るのを待つだけって事かな?」
と言っていた。
「よしっ! これでオッケー!! これにちゃんと蒼空君の事書いておいたから、後、次に来た時には雄介がやってくれるからなっ!」
そう蒼空に向かって笑顔で話す朔望。
「うん!」
蒼空が朔望の言葉に理解しているのか? っていうのは分からないのだけど、とりあえずは納得しているようにも思える。
そういう所では本当に今日は色々な発見が出来そうだ。
後は歩夢の方だ。
歩夢はまだ医学部を卒業してまだそんなに年数というのは経ってない。 それに今歩夢が担当しているのは俺と同じで大人ばかりを見させている。
だが歩夢というのも本当に仕事には真面目人間で普段の歩夢からは想像が出来ない雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
そういつもあんなふざけているイメージがあるのに、本当に仕事の時というのは表情から言葉からこうも真剣さが溢れ出ているようなのだから。
だから逆にその部分に安心する事が出来たという事だ。
ホント今日の二人にが感心させられてしまう。 オン、オフが上手く出来ているという事も分かった。
そして病院よりは少ない患者さんを診終えるとホッとしたような表情をしている二人。
「とりあえず、今日はもう患者さんは居 らんでぇ」
と急に雄介はひょっこりと診察室のドアから顔を出してくるのだ。
「へ? あれ? 雄介はそんな所にいたのか?」
「ん、まぁな、だって、今日はゆっくりする事が出来たし、なんて言うんかな? 待合室に来ていた患者さん達と話ておったわぁ。 逆にこういう機会っていうのはあんま無い事やろうしなぁ」
「……へ!?」
そう言っている雄介に俺は目を見開きながら見つめる。
まさか雄介がそこまで考えて待合室に居たとは思ってなかったからなのかもしれない。
確かに雄介は今時間ここにはいなかった。 まさか待合室でそんな事をしているとは思ってもみなかったという事だ。
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