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ー鼓動ー55
二人でこうやってキッチンに立つのも本当に久しぶりの事なのかもしれない。
俺が野菜を切っている間に雄介は何か他の事をしているようだ。
こう何かをしている雄介に横顔も好きだったりする。
雄介っていうのはカッコいいっていうだけではない。 何か他にも魅力的なところがあるという事だろう。
真剣に何かに取り組んでいる姿だって本当にカッコいいと思う。
「朔望達はキッチン用具っていうのは使ってへんのかな?」
そう独り言のように呟く雄介。
「……へ? 何でそう思うんだ?」
「だってな、使ってる形跡が無いっていうんか、なんていうんかな? なんやろ? 調理器具が埃っぽく感じんねんなぁ」
「ん? そうなのか?」
「このボール見てみぃ、少しやけど、埃みたいなのが付いておるやろ?」
「え? あ、まぁ、そこは、やっぱ、しょうがねぇんじゃねぇの? アイツ等だって仕事で忙しいんだからさ」
「ま、そうなんやろうけど、せめて、どっちかが休みの日とかに料理せぇへんのかなぁ? って思うてな」
そう言うと雄介は少し埃っぽくなっている調理器具を洗い始める。
「今の時代っていうのは、食中毒っていうのが流行る時期やねんやろ? こうやって人が口にするようなもんっていうのはちゃんと洗っておかないとアカンやろな? ホンマ、今の時期の小児科っていうのは、食中毒起こして来る子供達が沢山居るし、夏は夏でホンマ沢山のウイルスっていうのは居るし、冬は冬で流行するウイルスもあるし、まぁ、ウイルスっていうのは年がら年中居るって事やんな。 体内にウイルスが入ってしまって嘔吐や下痢を繰り返すかもしれへんけど、その際には逆に下痢止めとかっていうのを使わへん方がええんやって、そういう場合には出すだけ出さないといけないって事やんな」
「……って、おい、これから、食事すんだから、そういう話すんなよな」
そう俺は雄介に突っ込むと、
「ああ、スマン、スマン、こういうの見てたら思い出してまってな」
そう半分笑いながら謝って来てる所からすると、雄介的にはもう仕事の話みたいなのは癖になってきてしまっているのであろう。
「ま、いいんだけどさ。 それだけ雄介も医者として本気になって来たっていうのが分かってきたしな」
俺はそう言って雄介の方へと笑顔を向ける。
「ん……まぁ、そうなんかな?」
「……って、小児科の仕事って大変じゃないのか?」
「でも、やりがいっていうのは感じんで、それに俺は子供っていうのは好きな方やしな。 なんやろ? 大人にはない純粋な所がええっていうんかな? 痛い時には痛い。 って口に出して言ってくれるし、泣きたい時には泣いてくれるし、でもな、時にはその純粋さが武器になってしまう事もあるんだけどな。 子供ってな、思ってる事を直ぐに口に出してしまうもんやんか、そこがいい所でもあって悪い所でもあんねんけどな。 ま、そんなんでも俺はむっちゃ子供の事が好きなんやって」
そう急に子供の事について熱く語り始める雄介。
でも俺にはまだそれは分からないでいるのかもしれない。
「あー、また、スマン! スマン! 今日は俺の事ばっかり語っておってスマンかったな」
「あ、いや、それは別にいいんだけどさ。 雄介は今、小児科医になって真剣に仕事してるっていうのが分かって来たし、それはそれで良かったと思えるしな」
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