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ー鼓動ー63

 ……裕実って本当に不思議な奴だよな?  俺はそう思いながらクスクスとしていると、どうやら雄介に気付かれたようで、 「急にクスクスってしとるみたいやけど、どないしたん?」  そう体を洗いながら聞いて来る雄介。 「え? あ……裕実って不思議だなぁーって思ってよ」 「……へ? 裕実がか!?」 「そうそう、なんかさぁ、裕実のおかげで少しは俺が素直になれたところもあるなーってな。 アイツって俺が雄介の事で悩んでいると、こうさり気なく手を貸してくれるっていうのかな?」 「あ、確かにそういう所あるな」 「昔はその見た目とかでイジメられてたって言ってたけど、俺的には全然気にしないっていうの? あ、いや、俺的には見た目で判断しないっていうのかな? なんていうのか、あの性格が好きなのかもな、あ、いや……見た目が悪いって言ってる訳じゃねぇよ」 「分かっておるって。 あんなええ性格しとるのに、若い頃っいうのか若い奴っていうのか、そういう奴等っていうのは、こう見た目で人を判断する奴がおるからな」  そう話しながら雄介は湯船へと浸かるのだ。 「でも、傷付けられて育って来た人っていうのは、優しくなれるって言うよな? いや、元から優しい性格をしてるからイジメられるのかもしれねぇんだけどな。 それと人の痛みを分かってるっていうのかな?」 「ま、裕実の場合のは根っから優しい人間だったと思うけどな」 「まぁな。 でも、今は人に好かれてるからいいんじゃねぇの?」 「せやね、確かに裕実が嫌われてる所なんて見た事が無いわぁ」 「だろ? だから、今は本当に和也と居るようになって幸せになれたっていう所なんだろうな」 「ま、和也と一緒になれて楽しい事も学んで来たっていう所やろな。 だってな、和也と裕実の性格って全く反対やんか」 「ま、確かにな。 ま、俺達もそうなんだけどさ。 だから、逆に性格が正反対の方が合うんじゃないのかな? って思って来てるんだけど」 「そうなのかもしれへんな?」  俺の方も体を洗い終えると雄介とは反対側へと座るのだ。  久々に恋人同士で真正面に座って、さっきの食事の時みたいに雄介と視線が合う。 「……へ? あれ? 望の顔ってこないな顔やったっけ?」  その雄介の一言にムッとする俺。 「何がだよ……年取ったとでもいいたいのか!?」 「違う! 違う! なんかいつもと違うねんけどな?」 「いつもと違うのか?」 「いつもと違って、穏やかな表情をしているからなのかもしれへんわぁ」 「はぁああいい!? そんな事、関係あるもんなのか?」 「関係あるのかもしれへんで、いつもは、睨みつけているようなっていうのか、困ったような表情をしとるっていうんか」 「ま、今は本当に何も考えてないからな、島の事は朔望や和也に任せているし、そういう事なんだろうな」 「やっぱ、そういう事なのかもしれへんなぁ。 後一つ、まだ違和感があんねんて」 「何だよ」 「そうやって、俺の事睨み付けんなや、悪い事なんかじゃないんやからな」 「だから、なんだっつーの」

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