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ー鼓動ー78

「あ、あのさ……その時計っていつから付けてるんだ? あ、いや、だってさ、その時計ボロボロだし、傷付いてるし、俺の記憶が確かなら、その時計は俺と付き合う前から付けてただろ?」 「あ! この時計か!? これな……就職祝いに親父に買ってもらった時計たねん。 確かに望の言う通りボロボロになってもうたし、替えてもええねんけど、こう長年付けてると愛着みたいなのが湧いてくんねんなぁ、せやから、捨てるのはってなってもうたし、やっぱ一番の理由っていうのは思い出が詰まっておるしな。 だから、まだ時計を替えられないでいるって訳なんやわぁ」  そう雄介はその腕時計を俺に見せるようにして話してくれる。 「そうだったんだな。 んじゃあ、止まるまでは付けてるっていう感じなんだな」 「そういう事やね……って、望やって、その時計長いやんか」 「あ、そう言われてみればそうなのかもしれねぇな」  そう雄介に指摘されて確かに自分も物持ちいいのを思い出す。  俺の時計は雄介の時計みたくゴツくはないのだけど、ブランド物でもなく、その辺の有名メーカーの物でごくごく普通のシルバーの時計だ。 「あ、これは……俺の方も親父に就職祝いに買ってもらった物だったな」  雄介に言われて俺の方も時計の事を思い出す。 「ほな、俺と一緒やんか」 「んー、まぁ、そうなんだけどさ。 俺の場合には、学校が六年制だったから、雄介のよりかは新しいっていうのかな? そこが違うだけで、まぁ、一緒なもんか?」 「そうやんな」  雄介の言葉で思い出した。 今まで普通に使っていた時計だったけど、確かに自分の就職祝いに親父が買ってくれた物だ。 「そういや、朔望も俺と同じ時計してなかったか?」 「ぁあ! 確かにしておったのかもしれへんなっ! いや、うん! めっちゃしておったわぁ!」 「そうだろ?」  ……そういうとこ、親父は考えておいれくれたのかもしれねぇな。 医者になると腕時計っていうのは絶対に必要になってくるもんだ。  すると新城のコンビの看護師だと思われる人物が診察室から顔を出して来て雄介の名前を呼ぶ。 「桜井さん、どうぞ」  それに反応して俺と雄介は診察室へと入って行く。 「え? あ……」  俺達が診察室に入って新城は俺達の顔を見上げて来るのだ。 「ぁあ! 本当に桜井先生だったんですか!?」 「え? あ、まぁな」  そう言いながら雄介は慣れたように椅子へと腰を下ろす。 「……で、今日はどうされました? 前回の診察より離れているかと思うのですが。 前回とは違う感じで来られてるって事なんですかね?」  そう新城は電子カルテを見ながら言ってくるのだ。

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