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ー鼓動ー150

「ほなら、お医者さんゴッコええねんな?」 「そういう事だ」  と俺はもう雄介には誤解を生まないようにとハッキリと答える。 「ほなら、望は患者さんなぁ」  だけど、そう改めて言われると恥ずかしい。  これが、もし子供の頃のお医者さんゴッコなら下心とかないのだけど、大人がやるお医者さんゴッコというのは下心というのか、まぁ、うん……なんていうのか、子供の頃とは違うっていうのか……まぁ、イヤらしい事しかないのだから。 「今日はどうしたんですか?」  と雄介が標準語を使ってくる。  そこに笑いそうになった俺。 「そこ、笑うとこ違うやんか」 「え? あ、まぁ、そうなんだけどさ、俺がお前の標準語に慣れないって所かな?」  その言葉に雄介はムッとした表情をし、 「どこか痛いとか? 症状の方はいかがなんでしょうか?」  そうわざとなのか再び標準語を使う雄介。 「……って、それって、わざと使ってるだろ?」 「わざとかもしれへんけど、もう、望と話とかしててとかもあるし、やっぱ、東京で医者をしてたんやから、使わなきゃアカンって状況やったやろ? せやから、とりあえず覚えたんやしな。 今は望が患者さんねんから、使ってるだけやしな」 「まぁ、分かったって、ついでだから、おかしな所は直してやるよ」 「多分、もう大丈夫やと思うで。もう、東京に来て長いしな。 そんだけ居ったら分かってくるもんやし」 「まぁ、そうかもしれねぇな」  雄介の言う通りなのかもしれない。 地方から東京に来たり、東京から地方に行ったりして長年その土地にいると段々とその土地の言葉を覚えていくもんだ。 ただ俺がそれに慣れていなかっただけなのかもしれない。  俺は仕方なく雄介が言うお医者さんゴッコに付き合う事にした。 「それで、今日はどうなさいました?」  やっぱり、まだ笑いそうになるのだけど、そこはどうにかして耐える。 「え? えーと……」  そういや、お医者さんゴッコをすると決まったのだけど自分の病状について考えていなかった。  ……何がいいんだろ? お医者さんゴッコにしてくれたのはいいんだけどさ。 「……って、雄介は何科の医者の設定なんだよ」 「え? あー……確かにそれは決めてなかったわぁ」 「こういう事って、最初に簡単な設定とかって決めておくもんじゃねぇの?」 「どうなんやろ? あんまこういう事ってやってみた事ないし」 「まぁ、とりあえず、俺らは一応医者なんだから、何科っていうの位は設定しといた方がいいんじゃねぇのか?」

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