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ー閃光ー110
そして奥の部屋に行くと、一人の人物が俺に向かって笑顔で手を上げ、
「よっ! 久しぶりだなぁっ!」
と言ってきた。
本当にその言葉遣いと笑顔が久しぶりすぎて、思わず俺も笑みがこぼれたように思える。だが、普段ならこの人物にこんな笑顔を向けることはしないはずなのに。
「え? でも、どうしてここに?」
さすがに俺も、その人物に抱きつくことはできない。むしろ、そういう性格ではないからだ。
「だってさ、望には来なくていいって言われたけど、やっぱり親友がこんな状態じゃ、来ないわけにはいかなかったからなぁ……」
「そういうことー!」
その人物に続いて話しかけてきたのは、俺の兄弟だった。
ということは、今回、四人で春坂に来たのだろうか。
「望さん、お久しぶりです」
そう言って、最初の人物の後ろからひょっこりと顔を出して、俺に話しかけてきた。
「ああ、久しぶりだな」
相変わらずの丁寧な挨拶に、俺は再び笑顔になる。
「望兄さんたち、大丈夫だったのー?」
今度はさっきの兄弟の弟が声を掛けてきた。
何だか急に、この人物たちの登場で、俺の体から力が抜けてしまったように感じた。
雄介が記憶喪失になってからというもの、俺は一人で雄介をなんとかしようとしていたので、勝手に体に力が入ってしまっていた。でも、みんなが俺を支えてくれるおかげで、ほっとしてしまったのかもしれない。
俺は、こんなにもたくさんの人に支えられているんだと、今更ながら気付く。
「とりあえず、ご飯でも食べましょうか?」
そう言ってくれたのは美里だ。
今日も美里が料理を作ってくれたのだろう。
「今日は美里さんが作ってくれた家庭的な料理が食べられるなんて……僕、幸せですよー」
そう言ったのは、今回俺の家に来た人物の一人だ。同時にその人物は美里について行き、手伝うようだ。それもまた彼らしい行動なのかもしれない。
このメンバーの中で、女性にこんなに紳士的な態度を取るのは朔望だ。
その様子に少し呆れながらも、二人の会話は続いているようだった。
「あらぁ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわぁ……」
朔望と美里は、すでに仲が良いように思える。
しかし、一体朔望や和也、裕実、歩夢はいつ頃春坂に来たのだろうか。
そう思いながら、俺はソファに座り、和也の方を見上げる。
今、和也はソファの後ろに立っていた。ちょうど、俺が話しかけやすい位置に立っていたのだが、やはり俺が一番話しやすい人物といえば和也だろう。
「今日は何時くらいにここに着いたんだ? それに、なんで俺たちがここに住んでることを知ってたんだ?」
「……って、いきなり質問多すぎねぇ? まぁ、確かにサプライズ的な感じで来た俺らも悪いけどさ……」
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