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第2話
午前7時45分。
いつもより若干早い登校にも関わらず、校舎前は人でごった返していた。
「お、椎名おはよー!」
「おはよ」
掲示板の前にいた見知った顔に、小さく手を振って近づく。
「結果知りたい?自分で見る?」
「さすがに密度えぐいわ。教えて」
「c組だったぞ。ちな俺と同じ〜」
「マジ?やったじゃん」
靴箱に靴を入れて、上履きに履き替える。1階分登校が楽になったクラスに上級生の特権を感じながら、教室に入った。
「絶対席遠いじゃん」
「お前の苗字が後ろすぎるんだよ」
黒板に張り出された座席表を見て、席を確認する。端から2列目後ろから2番目という中々の良席に感謝しながら腰を下ろした。
「てか今日午前終わりじゃん。どこ行く?」
「あいつらも行くかによらん?」
「呼べば来るっしょ」
「それもそうか」
放課後の予定を立てながら、見知った顔と挨拶を交わす。そうしていると思いの外時間が経っていたようで、聞き慣れた予鈴が鳴り響いた。
「うわもう時間か。また後でな」
バタバタと去っていく友人の背を見ながら、何となく手持ち無沙汰でカバンを開いた。置き勉の為にせっせと机に教科書を詰めていると、背中にちょんちょんと軽い感触がして振り返る。
「おはよ」
呼吸が出来なくなったかと思った。
くっきりとした二重に、ぷっくりの涙袋。すっと通った鼻筋も相まって人形のように整った印象の顔が、厚い唇のお陰で絶妙な愛嬌を感じさせる。
端的に言って可愛い。その一言に過ぎた。
「お、はよう!!」
「なに、緊張してんの?」
あはは、とおかしそうに目の前の男が笑う。猫みたいに笑う目と、反対に大きく空いた口が無邪気で可愛くて、脳みそが混乱した。
それからのことはよく覚えてない。
瀬戸内祐也。名前は覚えてるから、自己紹介はしたはずだ。すぐに先生が来て会話は中断されたけど。
特にその後会話をすることも無いままイツメンと下校したものの、頭の片隅にはずっとあの子の笑顔が残っていた。
そして夜。あとはもう寝るだけという状況で、俺は中々寝つけないでいた。それもこれもあいつのせいだ。自分の中に生まれた感情を否定したくて仕方がないけど、これは明らかに今まで何度か味わってきた感情だった。
恋。
一目惚れを否定する気は全くないけど、今回ばかりは嘘だと言って欲しかった。
(何度思い返しても、男子制服着てたんだよなぁ)
そもそも俺の後ろに座ってた時点で男以外ありえないんだけど。男に惚れたなんて悪い冗談だと思いたいのに、顔を思い出すとどう考えても恋にしか思えなくて気分が落ち込む。
「とにかく、明日また話してみるしかないか」
全てを一旦無かったことにして無理矢理眠りについた。明日になったら意外と何でもなかったりするかもしれないしな。
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