40 / 120

【完】06

 なんでお前らここにいるんだとか那智に退学になったんじゃないのかとか、色々言いたいことはあった。あったんだが、それよりも、だ。  俺の足は、気付けば那智の元へと向かっていた。後ろから咲良っ!と朝日の声が聞こえるが、俺はいてもたってもいられなかった。 「あ、咲良先輩」  結城の声を合図に皆一斉にこちらを見ると、こちらに振り返った那智は「咲良・・・!!」 と、俺が抱き着くとでも思っているのか、俺に向かって手を広げるのだ。  そんな那智に向かって、「おい!!」と、俺は声を張り上げ、那智の目の前に立つのだ。 「あんた話盛りすぎだろ!!俺はそこまで言ってない・・・!!!」 ((言ったのはマジなのか・・・))  すると類がでも~、と何か言いたげなのだ。こちらもなんだか嫌な予感がするんだが。 「いいもんね~。俺なんて咲良ちゃんに舐められたし(唇を)」 「「な・・、舐め・・・ッ??!?」」  類と那智のよく分からないマウント合戦に、俺の顔は熱くなっていく一方だった。  弥生と結城に至ってはなんだかぐぬぬとでもいいたげな表情だった。 「っば・・・!ばかばかあんたら言わなくて良いだろそんなこと・・・!!」  嘘ではない。決して嘘ではないんだが、語弊を招く言い方じゃないのか・・?!朝日もいるのに・・・!!  するといつの間にかこちらに向かって来ていた朝日は「咲良」と、俺の隣に来ると、皆に見せつけるかのように俺の腰に手を回し、ぐいっと引き寄せるのだ。  よろけた俺はぽすん、と朝日の胸に身を寄せる形になってしまい、余計に顔が熱くなると、そのまま動けずにぴたっと硬直してしまう。 「・・どうも。ご無沙汰してます。"俺の"咲良が随分と世話になったようで」 と、その場にいる"元"生徒会の面々に向かって言い放つと、空気がぴりっと変わるのだ。 「・・・で、言いたいことも聞きたいことも色々とあるんですけど」  朝日はちらっと那智を見ると、那智は少し萎縮しているようだった。 「・・・なんであんたが、ここにいんだよ。あんた、俺達に何をしたか・・、」 分かってんのか、と朝日が言う前に、驚くことに、那智は俺達に向かって頭を深々と下げるのだ。  朝日も俺も驚いたのもつかの間、 「本当に、申し訳なかった」 と、少し那智の声が震えていたのだ。 「生徒会室での一件の後、目が覚めたんだ」 「・・・あの後、俺は家に連れ戻されてね・・。父に殴られて、物凄く怒られたんだ。君のお母様にも、父と共に何度も見舞いに行って謝罪をしたよ。・・あと、」  すると那智は俺をちらっと見ると、ぱちっと目が合うのだ。  俺を見る那智の様子に、腰に回されている朝日の手にぐっと力が入った。 「・・咲良を、傷付けてしまって、俺は、なんてことをしてしまったんだろうと思ったんだ。咲良を、好きな子を、傷付けたかったわけじゃないのに・・」 「類と弥生も、本当、すまなかった・・。」  聞けば、学校側からは退学の処分を下されていたそうだ。だが那智の父は退学は勘弁して欲しいと、かなりの金を学校に納め、那智がしたことも広めないで欲しい、十分に反省しているからと何度も学校に頭を下げたらしい。  そして金を受け取った学校は、那智がしたことは教師側と生徒会だけで内密に、というわけなんだが・・・ 「そしたら、何で先輩達と、弥生達はここに・・・?」  俺が問いかけると弥生は、もー、と息を吐くのだ。 「兄さんが途中で電話切るから説明できなかったんだからね?」 「あ・・・、ごめんな、弥生」  まあいいけど、と呟くと続いて結城が口を開くのだ。 「俺達も投票結構入ったんですよ。ま、元々生徒会だったし。表向きは那智先輩以外は今回のことには関わってないってことになってますから」 「・・俺がまたここにいるのも、それも父のおかげなんだ。学校側に何度もお願いしてもらったみたいでね。生徒会は、それだけこの学校にとっては価値のある役職だからね・・」  すると朝日は息を吐くのだ。 「・・・本当、親父さんに感謝してくださいよ、あんた」 「俺が生徒会長になったからには、不正も横暴も許さないんで。それは先輩でもあろうと、容赦しませんから」 「それと、咲良にもう手出ししないことを約束・・」 してください、という前に、那智は俺の手を取るのだ。  不意を突かれた俺は「え」となんとも抜けた声を発してしまう。  俺の手を取った那智はそのまま膝まずくと、ちゅっと手の甲に口付けるのだ。 「咲良、君を傷ものにし、これまでしてしまったことの責任を取らせて欲しい。俺の命が尽きるまで、君に添い遂げることを約束しよう」 「「お、重ッ・・・!」」  いや、重い。重いのもあるが、それはプロポーズのようなものじゃないのか・・?!  ここまでくると皆ドン引きである。 「っば、ばかかあんた・・・ッ」 「咲良、君は俺に何度も口付けをしてくれただろう?あの時のように、今一度、誓いのキスを今してくれないだろうか」 「だ・・っ、だだだだだ誰がするか・・ッッ!!ってか朝日の前でなんてことを言うんだよっ・・・!」 「それにあれはあの場を収める為の演技に決まって・・・」 「演技だとしても、俺はとても嬉しかった・・・!それとシチュエーションの問題なら、後日俺の家に招待し、仕切り直そうか」 「いやそっちじゃねえわ!!あんたほんと人の話聞けよ!!」  俺の手を掴む那智の手を、朝日はべしっと払うと、「咲良、そんなにキスしたのか・・?」 と、朝日からの尋問が始まった。那智が余計なことを言うから・・!  本当に那智の暴走を抑えるための演技だから絶対絶対好きとかじゃないからと、何度も朝日を説得する様子を見た類は、 「那智ってほんと人の話聞かないよね~」 と笑うのだ。いや、あんたも大概だが。 「どうせさ、アレも妄想でしょ~?那智が2年の時に咲良ちゃんに微笑まれたとかなんとか」 「妄想じゃないと言っているだろう・・?!なあ咲良・・・!」 「・・・え?俺、そんなことしてませんけど・・・・?」 「「いやそれは妄想なのかよ・・・!」」  するとショックのあまり硬直した那智は、取り乱したと思えば生徒会室を飛び出して出て行ってしまったのだ。  類は「待ってよ那智、俺もうちょっと咲良ちゃんといたいんだけど~」と、那智を追いかけて続けて出て行ってしまった。  そんな類達の様子を見た朝日は、 「あー、やっと騒がしい奴らが出て行った」 と呟き、俺を解放すると、すぐさま後ろからぎゅうっと抱き着かれ、包まれるのだ。 今度はなんだと後ろを見ると、 「咲良先輩、やっと捕まえた」 「結城・・?!」  離せよと身をよじるが、腹に腕を回されていて逃れることができない。 「つれなあ、もう。いいじゃないですか、俺達だってあんなことした仲なんですから。こんなスキンシップくらい、可愛いもんでしょ」 「可愛くない!むしろ余計生々しいんだよ・・・!」 「わ、先輩なに考えてるんですか、すけべ」 「~~!!せ、先輩をからかうな・・っ!!」 すると横から伸びてきた手が結城の手を掴むのだ。 「今度はお前かよ結城・・・!」 「あは、朝日先輩、なんだか久しぶりですね。保健室の時以来、ですよね」 「あの時はすいません、俺と咲良先輩がシてるとこ、見せ付けてしまったみたいで」  くすっと朝日に向かって笑う結城を、朝日はキッと睨む。 「・・・お前は本当に私情で咲良襲ったんだもんな。・・、これから、覚悟しておけよ。みっちりしごいてやるからな」 「怖いなあ、もう。・・弥生、お前も兄さんと話さなくていいのかよ」  少し離れたところにいた弥生はちらっとこちらを見ると、なんとも気まずそうな顔をしているのだ。 「い、・・いいよ、俺は。どうせ電話とかで話せるし・・・」  朝日が結城の手を掴んでくれていたおかげで結城の腕から逃れることができた俺は、弥生の前まで来ると、弥生の手をぎゅっと取るのだ。  ぎょっとした弥生は俺を見下ろすと、かなりテンパっているようだった。 「っに、兄さん・・・?!」 「・・ありがとうな、弥生。お前があの日、朝日に俺と那智先輩のことを伝えてくれたから、俺達は今こうして一緒にいられるんだ」 「兄さん・・・」  すると弥生はまた複雑な顔をしているのだ。 「咲良せんぱーい。弥生、こう見えても未だに保健室のこと引きずってるんで、あんまり触ったりするのは無神経だと思うんですけど」 「っな"・・・!結城・・・!!お、おおおお前兄さんに余計なこと言うなっ・・・!!朝日先輩だっているんだぞ・・・!!」  あれから結構時間が経ったのに未だ引きずっているのか。  目の前の弥生は耳まで真っ赤で、熱でもあるんじゃないかと思ってしまう。  少し高い位置にある弥生の額に手を伸ばすと、後ろから伸びて来た手にぱしっと掴まれるのだ。 「咲良・・、お前、弟思いなのは分かるけど距離近すぎ。弟も困ってんだろ」 「・・・あ、ごめん、弥生。ついクセで・・・」  ぱっと弥生から離れると、弥生は安堵したかのように息を吐くのだ。 「咲良先輩、俺にもそのくらいの距離感で接してもらっていいんですよ?」 「お前は弟じゃないだろうが・・!」  すると朝日はやれやれとでも言うように弥生と結城を見やる。 「・・・ま、弥生のことは事故だったとして、・・結城、お前も咲良にちょっかい出したら容赦しないからな」 「・・・・・はい、手を出さないように、善処はしますね、"会長"」  朝日と結城、2人の間にバチバチと見えない火花が散っているように見えた。  すると、扉の方からバタバタと足音が聞こえるのだ。しくしくと泣いている那智を類が引きずって戻ってきたようだ。 「あ、そうそう朝日くん」  引きずって来た那智をべしっと床に落とすと、那智は「ぐえっ」と鳴いていた。  俺達の前まで来ると、朝日の肩に手を置いた類は 「俺もまだ、咲良ちゃんのこと諦めてないから。よろしく」 と呟いたのだ。 「じゃ、俺これからテレビの仕事だから帰るねえ、"会長"」  類の姿が見えなくなった扉から手だけを出す類は、じゃあね~、咲良ちゃん、とこちらに手を振ると、生徒会室を後にするのだ。  そして朝日はわなわなと肩を震わせると、俺の手をぎゅうっと握る。 「・・・咲良、一人で生徒会室に行くのは禁止な。分かったか?」 「あ、ああ・・」  そんなことを言う朝日に、少し過保護じゃないかと言うとお前はもう少し危機感を持てと怒られた。  ガラッと変わったこの環境で、もちろん不安もある。けど、それ以上にこれからどんな生活が待っているのかと期待も膨らむのだ。  一人では不安しかなかったかもしれない。でも、朝日が隣にいるから、俺の手を握っててくれる朝日がいるなら、きっと何があっても怖くないと、俺は思うのだ。  笑っている俺を見た朝日は、ぎゅううと手を強く握るのだ。  痛いくらいに繋がれた手はひりひりして、でもそれがなんだか凄く嬉しくて。 ーー痛いくらいで、いい。だから、ずっと離さないで、朝日。 END.

ともだちにシェアしよう!