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左遷太守と不遜補佐・3

言われてみれば、太守補佐の証である孔雀の胸飾りが美青年――青明の衣の上を舞っていた。このような青年であれば、官職の証でさえ、まるで装飾品のように映えている。 「おっ、よろしくな! 俺は訓練兵第三十……じゃなかった、太守の任をタマワった赤伯だ。そっか……胸飾り胸飾り……」 太守を任ぜられた際に与えられた朱雀の胸飾りを探して懐を漁った。確か胸当ての紐に括りつけ、失くさぬようにしていた筈だ。そんな赤伯の動きを特に気にもせず、青明は跪き、深深と頭を下げる。後ろに立つ女官や護衛も、それにならって次々に視線を下げた。 「……短い間となりましょうが、心よりお仕えいたします」 「おう。って……短い間? 任期、言われてたか?」 なんとか見つけた胸飾りを取りだしつつ、赤伯は首を傾げた。確かにいま、目の前の青年ははっきりと「短い間」と口にした。短いと一言でいってもそれはいろいろな捉えようがあるだろう。一日二日も短い間と言えるし、一年であっても、いや三年を指しても短い間と言えるかもしれない。さすがに五年十年は、短くはないだろうが。 まずい、思い出せねえ……――とにもかくにも行けと言われただけで、そういえば任期だけに関わらず、そもそも太守の任務さえ聞いていなかったし、聞かされていなかったことを思い出す。 ぼんやりと遠い目をしていると、不意に手元が軽くなった。太守の証である朱雀が、補佐の指先に舞っている。 「こちらは太守さまが太守さまであるという大切な表徴です。お召し物にはお忘れなく、必ずお付けくださいませ。たとえ私用であっても、です」 いつの間にか青明が、手慣れた様子でぼろ布の胸元へ朱雀を飾り付ける。痛んだ衣と、金で象られた朱雀のなんと不釣り合いなことか。朱雀の瞳にはめられた小さな紅玉が、憐れむごとく光ったように見えた。 「都市にいらっしゃる間は、お命の次に……いえ、そのお命と同等に扱われませ」 「はは。俺の着物が嫌で飛んでいったりして」 赤伯が軽口を零すが、補佐である青明を始めとした誰も、それには無反応である。少しの寂しさと寒さを覚えて、赤伯は二の腕をさすった。 「さて。太守さま」 「……お、おう」 漂い始めた沈黙のなかで口火を切ったのは、やはり補佐の青明であった。抑揚のない声は、淡々と語る。 「まずは太守館へ参りましょう。任や都市については、道すがらお話いたしますゆえ」

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