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左遷太守と不遜補佐・5

「お前の後にいるその護衛は……そういったことから、俺を守るためなのか?」 赤伯は知っていた。裕福な貴族は、金に任せて己の身を守るのだ。太守という身分を得たいま、怯える民たちを差し置いて、まさか己だけが守られているのではと不快に思う。 「いいえ。我が家の財で雇ったわたしの護衛兵ですが」 「は……?」 後ろからついてくる屈強な男たちを軽く振りかえりながら問う赤伯に、何を言っているのだとばかりの、冷めた言葉が返る。 澄んだ青い瞳は、まるで氷のようだ。王都から選りすぐりの強者を派遣させているのですよ。そのまま淡々と付け足しながら、更に口を開いた。 「この都市を動かすのはあくまで太守さま。わたしはその補佐をするだけですから。わが身はわが身で守っておりま――」 「……お前、青明っていったか?」 赤伯の肩が震えている。さびれた町並みの中、やや豪奢な作りをした太守館……太守がその任や寝食をする館は目前だ。 「女子供じゃなくても夜歩きは危ない? だったらそれをどうにかするのが俺たちの役目じゃないのか! 太守に仕える身だかなんだか知らねえけど、お前だってこの国の官吏の一人だろ!」 まくしたてられた怒号に、青明の気だるそうな瞳がたった一瞬、微笑むように揺れるのが見えた。 「ああ……、思ったよりも面倒なお方だ。まるで、太守という存在に夢を見る赤子のようでございますね」 ぴりりとした空気が初めて、赤伯と青明の間に流れた。 「……悪いかよ」 交わされた視線は決して睨み合いとまではいかない。それでも険悪なものであることにかわりはなかった。 「絶対に、変えてみせる。この都市だって、お前だって」 ぐるりと体を太守館の門へ向けると、赤伯は太守としての第一歩を、 「おい青明! この門ってどうやって開けるんだ!」 「ええ。この補佐が、お教えいたしましょう」 ……やはり補佐の手を借りることにして、踏み出したのだった。

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