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左遷太守と不遜補佐・14

太守館に並んで建てられた鈴氏の邸は、代々の繁栄を映した鏡のような存在だ。 古めかしくも豪奢で、建てられた当時から洒落た造りを取り入れられていたことが分かる。 しかしそうありながらも、太守館と並んだ際に引き立て役になるような、一目で人を惹きつけない控えめさも兼ね備えていた。 「青明……戻りました」 「入れ」 地を這うような低い声。木戸を通じて床を震わすようで、青明は思わず息を飲んだ。 「失礼いたします」 重みのある古い戸を、ぎいと鳴らしながら開けば、高価な調度品たちが青明を迎える。 実の祖父・灰明の私室だ。 足腰が弱くなった彼の祖父は椅子に座したまま、間髪を置かずにひじ掛けを手のひらで叩いた。 「鈴氏の長ともあろう者が、なんという体たらく!」 「申し訳ありません……っ」 怒号がびりびりと響く。それこそ先ほどの民の決起よりも、青明の身には堪えるものだった。 床に額がつくまで身を伏せると、呼吸が荒くならないよう、肺を使うことを自然と控えていた。 「無能なことをしでかしおって! お前が側近くにいながらこのような騒ぎを起こすとは!」 叱られて涙や汗が出る齢ではない。 だが、体中に流れる血が一斉に凍てついて、肌がじりじりと痛いことだけは分かった。 「あくまで補佐の役目は、太守がその任を滞りなく進められるようお支えすること……そして、最大の役目は――太守が自滅しようとも、この鈴氏だけは守ること。分かっておるならその役目を果たさぬか!」 「はい……しかと……」 「……ふん、もうよいわ。しばらく顔を見せるな」 青明が退くと、祖父自ら皺の寄った手で、重い戸を閉めた。 ありがとうございました。 聞こえているか、そもそも聞く意思があるか分からないが、それでも『叱られたこと』への謝意を伝え、邸を後にした。 鈴氏の子息として、彼が家長と補佐を継いでから二年が経とうとしている。 先代である父は体が弱く、青明に家長を譲ると告げて、すぐに眠ってしまった。本来ならば、まだ父の背を見て、家長としても補佐としても学ぶべきことが多いというのに、それもままならず、自らを戒める毎日だ。 この二年、いずれの太守も情けない有様に終わった。それもそうだろう、任命された者にとっては終焉の土地なのだから。 灰明が補佐として現役だった時代は、この辺りにも優秀な人材が派遣され、このような様子ではなかったらしい。 王の座もまた代わり、いろいろなことが変わってしまった。 身勝手と噂される王が、王都から遠く離れた『地方』というだけで、勝手に終の地という烙印を押したのだ。 ……となれば、永い家系を守ることを念頭に置いてしまうのも致し方がないことである。都市再生の希望などは、心の奥底でとうに凍った。 さて、現太守の赤伯はどのように終わるのだろうか。意図せずにもてあそんだ民に刺されるか、罪悪感に負けて逃げ出すか。 太守館内での刃傷沙汰だけは避けてほしいと強く願いながら、件の人のもとへ戻った。

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