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赤髪の花婿・3
「青明って、外の都市に出たことはあるのか?」
「いえ……わたしは、ずっとあの中に閉じこもっていましたから……」
「そーだよなあ。馬も乗れないんだもんな」
馬車の移動でよかったな。と、にやつく赤伯を見て、青明は目を細める。
「馬に、わたしを乗せる資格がない。それだけでしょう」
「……うわ」
いわゆるお坊っちゃん育ちの青明は、国の官吏としての姿勢を改めたとはいえ、根は相変わらずらしい。
「そういえば、その簪……ずっとしてるんだな」
赤伯は、結われた青明の髪を見て問う。
その簪には鋭利な仕掛けが施されており、治安の悪い前都市では装飾だけでなく護身用としても活用されていた。
「次の都市は中間部に近いし、治安も安定してるみたいだけど……」
内心、赤伯は青明が新しい簪を欲しがらないかと期待していた。
彼の兄のように、身につけていられるものを手際よく渡せたら、どんなにいいだろうか。青い蝶を模した飾りなんかよく似合いそうだとぼんやり妄想する。
「とは言え、長年身に着けていますから、馴染んでいるんですよ。特に外すつもりはありませんね」
「……護身なら、小刀とかの方が安全じゃないか?」
赤伯の言葉に、青明はふいと顔を背ける。
「……わたしは……刃物は、あまり……」
「ああ……なんとなく、分かった」
簪を贈る機会は失ったが、青明らしい返答に少し安堵する赤伯であった。
束の間の平穏に身をゆだね、彼らは馬車に揺られて行く……。
――八日の道程を経て、彼らは新たな都市・薺参《せいさん》へ入った。
出迎えたのは品のよい婦人であった。とはいえ、やや化粧は濃いめといえよう。
「ようこそいらっしゃいました太守様。わたくしは前・太守補佐の娟漣緋《エン・レンヒ》と申します」
太守は国から任命されるが、だいたいが鈴氏のように世襲で担っている。
そのため、不足がないのであれば男女の性別を問わずに就くことができるのだ。彼女のような補佐も、珍しくはない。
前補佐という婦人・漣緋は……青明に向かって頭を下げる。
「お若い方とは聞いておりましたが、それだけでなく、存外にお美しい太守様で……」
「あの……太守は、わたし、ではなく」
「俺、です……はは」
小さく手を上げた赤伯を見て、漣緋は一瞬目を見張り、慌てて頭を下げ直す。
「まあ! これはこれは! 大変失礼いたしました!」
「あーっと、気にしないでくださいよ、漣緋さん」
苦笑する赤伯は、実際に気にしていなかった。
平々凡々な平民出であることにかわりはなく、雰囲気としては青明の方がいかにもそれらしい。
「お疲れでしょう。ささ、太守館へお越しくださいませ」
「ありがとう。あの、漣緋さんは前の補佐なんですよね」
「ええ。前太守は夫ですの……けれど病に臥せってしまい、共に任を降りることにさせていただきました。もちろん、国の許可はとっておりますわ」
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