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逆愛Ⅷ《嵐side》4
部屋の鍵を開けて中に入ると、洸弍先輩が資料探しをしていた。
俺に気付いた洸弍先輩は、手の動きを止めて俺の方を見た。
「大空か…」
舌打ちをしている愛しくてたまらないこの人と密室で二人きり。
何から話せばいい?
マサやんが言ったことがウソだとしたら、どうする?
そんなことばかり考えて何をしたらいいか分からない。
「…お前は何の資料探しにきたんだよ」
「去年の文化祭費用のデータとか」
咄嗟にウソを言えるあたり俺すげぇ。
あんたに会いに来たんだよ、とか言える雰囲気じゃないな。
とりあえず資料探しをしているフリでもしよう。
無言のまま2時間ぐらい資料探しをしていた。
お互い、資料探しなんてとっくに終わってる。
洸弍先輩は携帯をいじりながらソファーに座ってるし。
俺の目線に気付いて先輩が俺を見た。
「お前終わった?早く鍵開けろよ。持ってんだろ?」
俺が鍵を開けてこの部屋を出たら、もうこのチャンスは来ないと思う。
開けてたまるか。
「俺、持ってないですよ鍵」
「は?じゃあどうやって入ってきたんだよ」
「マサやんが開けてくれたんですよ。洸弍先輩が鍵持ってるって聞いたんですけど…」
「マジかよ…何のつもりだあの英語教師。まじで苦手」
俺の猿芝居を信じきっている先輩が可愛く思える。
こんなに近くでじっくり先輩を見たのは3ケ月ぶりかも。
白くて、綺麗な肌。
―…愛しい
「お前、山田雅鷹に電話しろ。開けてもらえ。じゃなきゃ出れねぇ」
いやいや、俺持ってますから鍵。
なんて言えるわけない。
「先輩が電話すればいいじゃないですか」
「俺あいつの連絡先知らねぇから」
どんだけ俺様!?
確かに洸弍先輩はマサやんのこと嫌ってたけど、生徒会の経理の担当なんだから連絡先は登録しておかないと。
出張後やイベント時とか連絡しなきゃいけないし、ましてや担任なんだから…
仲が良いんだか悪いんだか。
「俺、携帯の充電切れてるんですよね」
切れてないけど、切れそうなのは事実。
ここでマサやんに電話したら俺の負けだ。
「またかよ。使えねぇな。携帯6年も使ってるからだよ」
…散々言われまくってるな。
「いいよ。俺が調べる」
すると先輩は、携帯をいじりだし誰かに電話をし始めた。
「あ、綾くん?いま大丈夫?あのさー、悪いんだけど山田雅鷹の番号教えて折り返し電話くれる?うん、よろしくー」
綾くんってのは神威だな。
そんなにここから出たいのか。
出す気は無いけど。
「折り返し電話…」
携帯を切って俺の方を見た洸弍先輩をソファーの上に押し倒した。
両手を押さえて、驚いている先輩の唇を奪った。
「んっ…」
持っていた携帯が洸弍先輩の手から落ちる。
その音でハッと我に返った。
「…にすんだよてめぇ」
我に返っても、そこには冷静な俺がいた。
「気まぐれですよ。気まぐれ」
だから、同じ言葉を返してやった。
両手は放してやらない。
もう止まらない、俺の決意。
「放せよ!放っ…!!」
うるさい口を何度も塞いで。
気まぐれなもんか。
好きなんだよ、
俺はあんたが愛しいんだ。
「お前には帝真がいるじゃねぇか!」
目から涙を流して先輩が必死に叫ぶ。
さっきから、どうして竜が出てくる?
「図書室でヤッてただろ」
もしかして、見てたのか?
あの現場を。
「あれは…」
「うるせぇ喋んな!お前なんて知らねぇ!放せ…」
途端、電気が消えた。
この部屋は夜8時になると自動的に電気が消えるようになっている。
暗い密室で、外からは雨の音。
暗い中、ソファーに押し倒した先輩の唇を再び奪おうとした。
「や、め…やだ…!!」
今までそんなに抵抗しなかった洸弍先輩が急に、俺に押さえられた両手を必死に振りほどこうとした。
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