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逆愛Ⅷ《洸弍side》1

夢を見る。 その夢に(うな)される。 暗い部屋、雨の降る音。 大空に抱かれ、幸せを感じる中、大空が足利槞唯(アシカガルイ)に変わる夢。 最近そんな夢を見る。 だから、 もしひとつ願いが叶うなら、記憶を消して欲しい。 楽しかった日々も、 抱き合った温もりも、 大空の顔も、 俺を呼ぶ声も、 知りつくしてる体も、 愛しくてたまらない大空の全てを俺の記憶から消して欲しい―… 最初は体だけの関係で、 それがいつの間にか恋に変わって、 大空を好き過ぎて狂いそうになる日々が続いた。 最後に大空に抱かれたのは、もう何ヶ月も前だ。 大空の笑顔を見たのは? 大空と目を見て話したのは? ――…いつだったかな 「洸弍くん」 放課後の教室で山田雅鷹と二人きり。 「俺ね、今度から生徒会の経理の顧問になるから。だから嵐くんに本当の気持ちを伝えても大丈夫だからね」 そう言って、俺の頭をポンと叩いて教室を出ていった。 俺なら追放なんてしないよ、と遠回しに言っているのが分かった。 よかった。 でももう大空は帝真竜のものなんだろ… 結局はどうにもならないんだよ。 俺の恋はもう終わったんだ。 大空が無事に学園生活を送れるなら、それだけで充分だ。 「俺が担当だからよろしくー」 一週間くらい前から生徒会の経理の担当が、山田雅鷹に変わった。 「また飲み行こうね洸弍くん」 「…遠慮しときます。記憶あんまりないし」 酒を3杯ぐらい飲んでから記憶が無いのは確か。 山田雅鷹が俺の部屋まで運んでくれたのだけは覚えてる。 「そういえばアヤちゃんさぁ、背ぇ伸びたよね」 「確かに。まぁ綾くんは昔から大きいイメージだったけど…性格は全然変わってないですね」 綾くんのことは大好きだけど、大空に対する感情とは別だ。 この前、確信した。 俺はやっぱり大空が好きなんだ。 「アヤちゃん昔から節操なしだからねー」 別にもう何も感じない。 大空のいない世界なんて、つまらないだけだと最近思う。 俺の中心は大空で、 大空には帝真がいて、 結局もう手に入らない。 何かをして気を紛らわせたって、気休めにもならない。 「これアヤちゃんがこの前くれた紅茶。美味しいから飲んでみて」 「どうも」 山田雅鷹が紅茶を入れてくれたのでそれを飲みながら話していると、大空が俺の元に来た。 「洸弍先輩、先月の決算書…」 あぁ、そうか。 決算のチェックに来たのか。 大空が俺に決算書を渡す。 「決算書は俺にちょーだい」 すると決算書を山田雅鷹が奪い取った。 何十枚もある決算書をペラペラめくりながら言った。 「今度から決算書は俺に直接渡して。チェックも俺がするから、洸弍くんには渡さなくていいよ。規約は無視で。俺がルールだから」 山田雅鷹は笑顔で大空を見て、再び決算書をペラペラめくる。 「この前、洸弍くんが『大空のせいで俺の仕事が増える』って言ってたからね。手助け。俺いつも暇だし」 「―…ははっ。そうなんすか」 確かにあの飲みの席で、そんな言葉を言った覚えがある。 そんなこと本人に言ったら、余計大空に嫌われるじゃないか。 マジ何なんだ、この英語教師。 「じゃあ嵐くんは今から第2実習室まで来て下さーい。今後の予算についてとかあるから」 「あ…はい」 そして大空は山田雅鷹と一緒に生徒会室を後にした。 俺は残された仕事を続けた。

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