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将門編・8

***  早速塚に行く事になり、三人で塚の前に立った。  朝陽が手を翳して結界を張り直していると、将門が同じように手を翳した。 「おい、ジジイ」 「はい!」 「ここの結界の強度を底上げ出来れば、俺は好きにしていいんだろ?」 「まあ、恐らくは。朝陽と番契約を結ばれてますので大丈夫かと……」 「なら、手伝ってやる。朝陽、全力で俺の力に合わせろ。お前ならやれる」 「分かった」  倍増していく将門の霊力に合わせて、朝陽も調整を加える。  塚を中心にして、周り一体が清浄化され、神社にいるような澄んだ空気に入れ替わった。  結界どころか、陰の部分全てが正常化している。  滅多に目に掛かれないくらいの強力な結界が完成していた。 「これでいいだろ? 帰るぞ朝陽」  歩き出した二人に向けて、博嗣が声を上げる。 「朝陽、華守人の番契約の件で確認したい事がある。もう少し付き合え」  そう言われれば断る理由もない。  三人はまた朝陽が借りている部屋に戻り、同じくテーブルを囲んでいた。 「うなじの桜の紋様を見せてくれんか?」 「別に良いけど」  朝陽は言う通りに後ろを向いて、博嗣にうなじを見せた。 「ああ、やはりな」 「何が?」 「元々は、うちの家系はコノハナノサクヤヒメという女神がいた血筋で、朝陽、お前は百年に一度生まれるか生まれんかぐらいに稀なΩ、華守人だと話したな?」  コクリと頷く。  それはもう耳にタコが出来るくらいには聞かされていた。  番の話も含めて朝陽はだいたい把握済みだ。 「本来なら、αとΩの間に成立するのは一対一での契約だ。だが、お前の紋様は将門公と番っても一枚しか契約が埋まっとらん」 「それは俺も同じ事を考えていたよ。やっぱり意味があるのか?」  また嫌な予感がしてきて、朝陽は視線を横に流す。  聞きたいが、聞きたくない。  脳が拒絶してきているのが分かった。 「お前の様な例はワシも今までかつて一度も聞いた事がない故 、憶測でしか言えんが、お前には後四人の番がいるやも知れん。一人につき一枚の花びらが契約で埋まるという理屈なら納得出来るじゃろう?」 「イマ、ナンテ?」  耳を疑った。 「ほう。この俺を差し置いて、お前は後四人と交わると?」  将門の纏うオーラが不機嫌に蠢き、増えて行く。  冷や汗が半端なかった。  将門が怖くて後ろを振り向けない。  二人から発せられる不穏な言葉の羅列など、理解したくもなかった。  鼓膜から鼓膜を通り抜けて、そのままなかった事になってしまえばいいと切実に願う。  朝陽は遠い目をして現実逃避を始めた。 「だから、お前には五人のαがいると言うておるのじゃ!」 「そんなにいたら俺の体持たないんだけど? 体力ないんだよ、俺は」 「成る程なぁ、この俺を股にかけるか」  腹に回されている将門の腕に力が込められていくのが分かった。  そのまま上半身と下半身を引き剥がされるくらいの力で固定され、息苦しい。  というより、痛い。 「将門、痛い! 力を緩めてくれ。マジで痛いっての! 俺の体が千切れる」 「それも良いな。千切れたら一緒に塚で暮らすか? それなら戻ってやってもいいぞ」  ギリギリと腹を締め上げられて、呻き声が漏れた。 「怖い事言うな! ていうか、将門お前最近言葉使いがおかしくないか? 昔の喋り方はどうした‼︎」 「お前が会社に行っている間、テレビとやらで現代語の勉強をしているからな。色々な情報も知れるしアレは暇つぶしに丁度いい」  己が居ない間は一体何を見ているのだろう。そっちの方が気になった。 「まー、それはアレだ。朝陽……頑張るのじゃ」 「もっと親身になってくれよっ⁉︎」  博嗣に物凄く良い顔で言われた。  完全に他人事の物言いだ。 「お前が次の番と絡む前に孕ませるか」 「いえ、結構です」  これが夢であればいいと思えば思うほど、真実味を帯びた言葉が朝陽にのし掛かった。  己の不憫な未来を思って、朝陽は心の中でソッと涙した。 →第二話、キュウ編へと続く 

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