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第1話
▼一匙の角砂糖を入れた珈琲は珈琲とよべるのか、否か
一匙の角砂糖を入れた珈琲は珈琲とよべるのか、否か
唐突に、いつもの大学近くの純喫茶の窓際奥の席に座り注文した珈琲を一口飲みテーブルに置いてある小瓶から角砂糖をポタンと落としティースプーンでかき混ぜながら、本当に脈絡なく話し出した目の前の男
慣れてはいるから、僕も自分の目の前にあるカフェオレに口をつけた
うん。美味しい
カップを皿の上に置いた
「それはつまり、珈琲という定義された飲み物が角砂糖を入れる事で砂糖入り珈琲となり、別物である。という話?」
そう話すと男はニッと笑い珈琲を一口飲んだ。すぐにもう一個角砂糖をポンっと入れる
「そうだ。察しが良くていいぞ」
「ならミルクを入れてもそう言えなくはないか?僕はカフェオレを注文したが、最初からミルクが添加されている珈琲はカフェオレと認知されるが、珈琲に後からミルクを入れるのでは印象も異なるし、不思議と味を違くも感じる。角砂糖よりはミルクの方が外見的変化は著しく「お待たせしました」……」
店員さんが僕の目の前に皿を置く
一礼して去っていった
すぐに僕はその皿を前に押す
「おぉうまそ!」
目の前の男はフォークとナイフを持って今月の新作苺たっぷりホイップホットケーキにさらにシロップを並々とかけて頬張り、んん~と嬉しそうに咀嚼する。でかい男であった
身長差は大学に入り190を超え体育会系サークルに勧誘されまくれその果てに文学サークルに入った変わり者。以前はバスケをしていたらしく今も知り合いとバスケをして遊ぶこともあるという
「んぁ?何?食う?」
いらないと手を小さく振ったがその時には唇に赤いイチゴが触れ、仕方なく口を開け咀嚼する。シロップがかかっていたからか唇が濡れている。それを舐めとるとなぜかじっと見つめられ、行儀が悪かったかと思うが、そもそも食べ物を押し付けてきたこいつが悪いと決着した
「んまい?」
「…美味しいです」
苺をすぐにカフェオレで流す。でも香りは残った
このテーブル席は自分たちの決まりの席
入学してすぐにここに通うようになり、半月後には目の前の空席が埋まった
物心ついた頃から人の群れとうまく馴染めず、孤独ではなかったが深い付き合いというものが無かった
それは親が転勤族、と言う点でも仕方ないのかもしれないが、やはりそうでなくても変わらない気がした
「でさ」
窓の外のイチョウの木が黄金色を揺らしているのを見ていると声がかかる
前を向くと男はこちらを見ておらず、必死に生クリームをピラミッド型のように削っているところだった何をしているんだ。まぁ毎回、ほぼやっている奇行だから今更だけど…
チラッと片目が僕を見る
片目だけでニヤッと笑う。器用なやつだなと思う
「珈琲に別な物。シロップシナモンココアパウダーココナッツミルクソイミルクナッツオイルミルクなどなど。入れたらもはや最初の珈琲と呼ばれる存在は別物である。と言いたいんだろ」
「まぁな」
聞いてきたくせに軽い
これは何かあると思った
一年と数ヶ月の付き合いだ。なんとなくわかる
僕はカフェオレを飲む。うん。美味しい。ちょうど良く温度も下がり適温だ。以前はブラックコーヒーだったが胃が傷みはじめたので胃に優しい、カフェオレにしたんだ
「エリオットが言いたいのは、不可逆的なことについてかな」
名を呼ぶと動きが止まり、しっかりと僕を見る。パクりと、赤い舌に生クリームとシロップがかかって垂れている苺をパクりと食べた
名は周防エリオットと言うが、四分の一イギリス人の血があるらしく、確かに瞳と短めの髪が琥珀のような、白みがかった色をしている
「そうそう!さすがよっちん!」
「はぁ」
僕はわざとらしくため息を吐く。変なあだ名はやめろと散々言ったがこの調子で、しつこい男だ。最初からだが
僕の名は四津河与太郎、よが二つあるからよっちんと初対面の時馴れ馴れしく呼ばれ、無視をした
僕が彼の苗字、周防さんと呼んだら真顔でエリオットかえっちゃんと選択を強制され、仕方なしにエリオットと呼んだのは記憶に新しい
2に続く
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