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第6話

6 「……………………」 パチパチと頬を弱い力で叩かれた 「ん…………」 眩しい 思わず光を遮るように腕を上げたがそれと同時に顔に影が覆った まだ霞む視界と思考の中、煌めく光が目に映る それは丸いビー玉のような瞳だった 「えっ?………………」 「よっ!」 ニカっと笑いチョップするように手を上げた男……周防(スオウ)エリオットがにひひと笑ってそこにいた いや……おかしい 「縮んでいる……」 目の前の男、いや男の子は確かに周防エリオットの見た目だったが明らかに幼い。小学生ぐらいだろうか。いやしかし幼児化するなんておかしい。これは夢か。頭もズキズキする。何かしらの病だろうか。またはタイムリープ?過去に戻ったのか?それとも謎の黒ずくめに一服盛られてしまったのか 「……可哀想に……こんなに縮んで……。あまり成長しても顔変わらないんだな」 なぜか悲しくなり僕は子供周防エリオットの柔らかい髪を撫でて頬を揉んだ。温かくて柔らかい 子供周防エリオットはくすぐったそうにして笑っている 「おいお前たち。いつまでやってんだ?」 ガララと扉を開かれた先にはフライパン片手の大人周防エリオットがいた 「あれ?大きくなってる」 「ん?」 疑問を抱いた表情をしたがすぐに視線を逸らし 「ほら暁斗!土曜日登校だからってなめないではやく準備しろよ」 「リオ兄ちゃんが起こしてきてっていったんじゃん!」 「それから十分も戻らない奴がいるか〜」 とたとたと大人周防エリオットに駆け寄る、子供周防エリオットの暁斗と呼ばれた少年が笑顔で頭を周防エリオットにわしゃわしゃと撫でられていた やはり夢だろうか 僕はぼんやりとその光景を見つつレースカーテン越しの光を浴びていた 「おはようよっちん」 「……」 ふわっと笑みを浮かべ、大きな手で柔く髪をすくうように頭を撫でられた 「おはよう、ございます」 僕は状況を理解する前に最適解の言葉を述べた 「はい味噌汁」 「…どうも」 手渡されたふわりと湯気立つ味噌汁を受け取る 「よしっと…」 周防エリオットは青いエプロンを外して僕の前に同じように食卓に並べられた席に座った 僕は畳の上で正座しており黙々と食卓に並べられる朝食を見ていた 「よし。ではいただきます」 「いただきます」 まずは一口、お味噌汁…………美味しい 学食などで飲むが周防が作ってくれたお味噌汁はとても香りがよく美味しかった。なぜだか痛む頭とダル気に苛む体にはとても沁みた。…あれから暁斗と呼ばれた。周防エリオットの二番目の弟が元気よく学校に行ったのだ。他に幼稚園の弟と妹がいるらしい。僕は一人っ子だからそんなに兄弟がいて賑やかな生活は想像し辛かった。僕は箸をすすめながらそんなことを考える。朝から玉ねぎと油揚げとわかめと豆腐の味噌汁、焼き鮭、お漬物、海苔、厚焼き卵の朝食を堪能しつつ考える。朝はパンと珈琲ばかりだったが、こんなに満たされる朝食は初めてだった 「どう?」 声がかかり見上げると同じくお椀を持った周防エリオットが凛々しい眉を下げながらそう尋ねた 「…とても、美味しいです」 「!そっか」 途端に笑みを浮かべ厚焼き卵を頬張る 互いに黙して食事をとる。つい家の中を見てしまう。木造住宅。窓からは明るい日光が差し、貫禄ある勉強机や壁にかけられたカレンダーにはシールや買い物や送迎担当など書かれている。グラスに注がれた麦茶を飲む。ふと、線香の香りがした。視界の隅、周防の後ろに仏壇が見えた。笑みを浮かべた男性の写真が置かれている 「どした?」 「えっと」 「ああ。うちの親父」 なんてことないように言い放つ つい悪い、と言った 「何も悪くねーよ。…信号無視した車に轢かれそうになった子供を助けて、轢かれちった。はは、お人好しの親父らしいなって母ちゃんと笑ったぜ」 周防はもぐもぐと綺麗な所作でありながらもパクパクと食べる ………………………… 「素敵なお父さんだったんだな」 そうつい言い溢すと、周防はハッとした表情を浮かべた後照れくさそうに笑った 「おう」 減った麦茶の入ったグラスに周防は麦茶を注いでくれた 「ご馳走様でした」 「お粗末さまでした」 食事を終え、洗い物をしようとしたが断られた せめてと皿ふきに甘んじる 実に満足度がある朝だ。大学の講義もないし。シャワーを浴びたらと言われたが断る。周防は課題があるらしく資料を探しに大学に行くらしい 食後、茶を頂きながら話を聞くと僕は烏龍茶と間違ってジンジャーハイを飲んでしまったらしく。酒にあまり耐性がなかったらしく周防に絡んだらしい。内容は自尊心のために割愛するが、やはり酒は危険だと身をもって理解した その後ぐだぐだとなり周防が僕を連れて店を出て送ろうとしたが会話が成立せず、自宅を教えないまま半分寝てしまったのでタクシーで家まで運んでくれたようだ 本当に、申し訳なくて冷や汗が出た 出た後そもそも連れ出した周防エリオットが悪いと内心可決した 「お世話になりました」 「いえいえ。大したもてなしもできませんで」 当たり障りのない挨拶をする 鞄を背負い玄関を出る 「ではお邪魔しました」 「おう!また大学でな」 手を振ってニコニコと笑う青色のTシャツを着た周防エリオットに僕は小さく手を振った。慣れない 踵を返し道を歩く 庭を過ぎるて門扉を開ける ここをまっすぐ行けば駅らしい。朝の散歩がてら歩いて帰ろう そう思って歩き出すと「よっちん!」と呼ばれ肩が掴まれた 振り返り何か?と尋ねる前にその声と息は彼の口に塞がれてしまう …………………………………… 「……これはお返し」 「お、お返し?」 何も考えられずそう鸚鵡返した 「そう。それでこれはご褒美」 ご褒美???となった頭のまま、再度瞳の大きい垂れ目の顔が近づいてきて形のいい意外と柔らかい唇がゆっくりと優しく己の唇に重なったのを、ぼんやりとしたまま僕は受け入れてしまった

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