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また明日 2/2
シャワーを浴びてホテルの部屋に戻ると、あいつはいつも窓の側に立って、ただじっと外を見ている。
バスローブがはだけた細い肩に、髪の先から雫が落ちる。
今、その後ろ姿を抱きしめて、一言何か愛の言葉でも囁けば、何か変わるのだろうか。
いや…きっと何も変わらないだろう。
何も変わることなく、今日もあいつはきっと、俺の腕をすり抜けていく。
いつから、こんな関係になったんだろう。
何で、こんな関係になってしまったんだろう。
きっかけは全部、あいつだった。
その細い肩を、柔らかな髪を、花が咲くような笑顔を、ほんの一瞬でも俺だけのものに出来るならそれでもいいと思った。
気まぐれでも、暇潰しでも、誰かの代わりでも。
でもそんなふうに思えたのは、本当に一瞬だけで、こうして夜を重ねれば重ねるほど、俺はどんどん欲張りになっている。
あいつを本当に、俺だけのものにしたい。
誰かの…何かの代わりなんてもううんざりだ。
「なぁ」
振り向いた瞳は、涙が溜まったように潤んでいる。
その目に、俺だけが映ればどんなにいいだろう。
「なに?」
顔を近寄せて、何を考えているのかわからない表情で俺を見上げる。
数ミリほどの距離。
それでも、ここに愛がないだけで、果てしなく遠くに感じる。
「俺たち…」
ちゃんと付き合おう。
恋人になろう。
こんな虚しい夜はもう終わりにして、一から始めよう。
そんな言葉たちを、唇で止められ、耳元にいつもの言葉が聞こえる。
「また明日ね」
そして俺から、この夜から、逃げるようにあいつはホテルの部屋を出ていく。
俺の腕に残るのは、いつも虚しさだけ。
まとわりつくような、ボディソープの香りだけだった。
――END――
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