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第19話 帰り道の物思い

『気をつけて。ホントにホントにホントに気をつけて』という節子の言葉を守り、安全運転を心がけながら灰谷は自宅に向けバイクを走らせていた。 結局、真島が友樹を開放したのは夕食をすませてから一時間後だった。 友樹はニコニコとイヤな顔ひとつ見せず真島のゲームに付き合っていた。 真島が可愛がるのもわかる気がする。 それにしても……真島の噂の件、あのオレをアオるような態度はなんだったのか。 『お二人、仲がいいから、真島ブラザーズなんて言われるボクとしてはちょっと嫉妬しちゃうんですよね』 嫉妬、とか言ってたけど。ただオレの反応見て面白がってるって感じもあったし。 『さっきだってボクの存在忘れちゃってたでしょ。まるっきり二人の世界で』 まあ、そんな感じも無きにしもあらずっちゃあらずだけど……。 まさかオレ達の事、知ってるわけじゃないだろうし。 ――――頬にあたる風が冷たい。 真冬はフルフェイスじゃないとキツいだろうな。 真島もバイクで誘い出してやらないと。 バイトバイトでストレスたまってるだろうし。 ああ。革ジャンの事、真島に話しそびれたな。 つうかやっぱダブル。バイクならシングルでもいいか。 古着で状態がいいやつとかねえかな。 ファッション番長の中田に聞いてみるか。 「ゲフッ」 あ~腹パンパン。食べすぎた。 それにしても……。 『ホントに?ホントにホントだな?』 パスタを作ってやると言ったら目を輝かせていた真島。 ったく子供か! つうかなんだろう。 パスタぐらいであんなに喜ぶ真島を見てたら、なんかこう~胸の奥がウズウズと……。 小学生みたいに絡んでくるかと思えば赤くなってカラダを離す。 オレの事、ホントに好きなんだな、そういう意味で。 そんな風に気づく事が真島の告白以来、増えた。 真島が隠さなくなったからか、オレが真島の気持ちを知ったからか。 告白したから覚悟しろなんて言っていた割にはあの不意打ちのキス以来、何もしてこない。 真島の性格上、あっちからグイグイ来るってのは多分…ない。 オレがハッキリと断らないない限りは諦めるって感じでもない。 やっぱりまあオレ次第ってことかと思うけど。 ハンドルを握る灰谷の手の中に真島をベッドに押さえつけた時の感触がよみがえってきた。 ――――細かったな真島の手首。 オレの片手で両手首が簡単につかめたし……。 女子と違って男子、自分とほぼ同等のものを力で押さえこむ征服欲。 なんだか胸の奥がウズウズっていうかモヤモヤっとして……。 そのせいか食べて食べて食べてしまったんだよなあ。 食欲と性欲……。 これ以上考えるのやめとこう。 マンションの駐輪場にバイクを止め、部屋に上がる前に郵便ポストをのぞく。 母・久子からまたハガキが来ている。 シンガポールの有名なホテルのものだった。 『健二、元気? 天空プールは最高よ。 もうちょっとだけ遊んで帰るわね。 おみやげ楽しみにしててね。  HISAKO』 簡単な走り書き。 『会社辞めて独立する。それで新しく自分で会社立ち上げる』 『あたし、結婚する。で、その相手なんだけど……女なの』 母からの突然のカミングアウト。 長く勤めていた会社を退社した母は恋人と旅に出た。 そう、真島も言っていた婚前旅行ってやつ。 気ままにあちこち回るらしく、今はどこにいるのやら。 それにしても今どき観光地からハガキって。 昭和か! ……楽しんでそうだな。 ハガキをパーカーのポケットにつっこみ、ヘルメット片手にエレベーターが降りてくるのを待つ。 夏のカミングアウト以来、久子は何度も恋人のミネと会わせようとしてきたけれど、なんやかんや理由をつけて会ってはいなかった。 どうせ真島んちで食事会するんだろ、とそれを理由にしてきたけれど。 とうとう来たか。 別にいいっちゃいいんだけど。どんな顔してればいいんだか。 『別になんもしなくても、いつもの灰谷でいればいいんだよ』って真島は言うけど。 ふう~~。 灰谷は深いため息をつくと開いたエレベーターに乗りこんだ。

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